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活気に満ちていた移籍マーケット。 

text by

鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2004/09/02 00:00

活気に満ちていた移籍マーケット。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 今シーズンも欧州の移籍マーケットは締め切りの直前までバタついた。ヴェスターフェルトのレアル・ソシエダからマジョルカへの移籍が決まったのは、最終日のことだ。彼が開幕の対レアル・マドリー戦に間に合っていれば、あのレアルのゴールは生まれていなかっただろうに。オーウェンのセンタリングを胸で押し込むだけでよかったロナウドだったが、見せ場はそれだけだった。

 この試合では、獲得したセンターバックふたりが揃って、負傷リストに名を載せた。

 「ウッドゲート? 誰だが知らないから、何もいえないよ。その前にスペイン語を覚えてもらわないと」と言ったのはサムエルらしい。2度の日本遠征にチャンピオンズリーグの予備予選と走りまくったサムエルは、開幕戦前に壊れた。ウッドゲートは開幕に間に合う身体ではなかったから、おかげで、別メニューをすることになったサムエルは、知らなかったウッディと距離を縮めることができたかも。

 さらに、ラウールが前半の14分に右足を引きずってロッカールームへと去ってしまった。そのおかげで、オーウェンのデビューが早まった。オーウェン獲得について、「自分の欲しい選手じゃなかった」なんてカマーチョがボソリといったとかいわないとか。でも、これまでのカマーチョからして、オーウェンのような小さくてスピードのある選手は好みである気がする。エスパニョールでもスペイン代表でも、ベンフィカでもそうだった。こういうのを、ケガの功名といっていいものなのかどうか。

 と、なると、誰もが考えるのがアタッカーの組み合わせだ。ロナウド、ラウール、オーウェン、モリエンテスらをどう起用するか。ある新聞社のアンケートでは、これまた恐ろしい数字が出ていた。スタメンはラウールかオーウェンかという問いに、ちびっ子イギリス人を押す声がレアルの王子を上回っていたのだ。この先、どうなるかわからない。

 デル・ボスケやケイロスとは異なる鬼軍曹タイプだといわれるカマーチョに一度、ビシッと締めてもらう必要がある、という声も聞くけど、レアルに溶け込むことができるのか心配だ。それに比べて、FCバルセロナの雰囲気は、とってもいいようだ。7人もの外国人選手を注入したことで、これまでのイメージはすっかり払拭された。ラポルタ会長はヌニェス、ガスパル時代に獲得してきた選手をほとんど放出したわけだ。

 寄せ集めのバルサだけれども、これが思ったほど悪くない。今季、バルサに来たエトーは、オーウェンの倍の金額を注ぎ込んだだけはある。マジョルカ時代にルイス・アラゴネスと何度も口論をしていたイメージが強かっただけに問題児かと思ったが、けっこう気の利くプレーをする。ひとりヨガリなことはしない。パスがさばけて、自らもチャレンジできる。それでいて、あの身体能力だ。その他、ジュリもデコも、ラーションにしても、とっても初印象がいい。なんというか、プレーに人の良さというか、優しさを感じる。皆それぞれが国を代表する選手だけれども、気難しいプライドをギラギラさせていないのが、いい。これにケガから復帰したロナウジーニョが加わることで、さらなるプラスに転じれば最高なんだけど、フットボールに足し算は禁物だ。

 さて、バルサとレアルが断トツでビッククラブぶりを発揮した、この夏の移籍マーケット。なんと、スペイン・リーグの各クラブが今シーズンに費やした移籍金は、昨シーズンの2倍となった。その裏で、アルバセーテやビルバオ、ヌマンシアは一銭も使わずに13選手の補強をしている。デポルティーボの補強も相変わらず渋い。バレンシアはイタリア色に染まり、過去3年で41選手もの補強をしてきたアトレティコもぼちぼち名門復活の匂いを漂わせている。お疲れモードの選手もいるけど、元気があれば何でもできる。今シーズンの移籍マーケットは、久々に活気に満ちていた。だから、ゲームも面白くなりそうだ。

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