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雨のアロンソ 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2007/07/26 00:00

雨のアロンソ<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 「ボクは天候が変ったり、路面のコンディションが変ったりするレースがすごく得意なんだ!今日はレースをエンジョイできたよ」

 勝ったアロンソはそう言って会心の笑みを漏らした。

 決して結果オーライでそう言ってるのではないなと思わせるシーンがあった。

 レースが赤旗中断している間、アロンソがヘルメットを脱いでコクピットの中で目を閉じ気持ち良さそうに笑みを浮かべながら日光浴をしていたからである。降ろうが照ろうが天候と一体になり、その中でベストのレースをしてやろう……とでも言いたげな自然な表情だったのである。アロンソはひとり雨のレースを楽しんでいた。

 豪雨などというだけでは表現し足りない、凄まじい通り雨がヨーロッパ・グランプリの舞台であるニュルブルクリンク・サーキットを襲った。バケツをひっくり返したなどというような生易しいものではない。いわば、サーキット全体が台風の海の上に浮かんでいるようなものだった。なまじっかな雨では赤旗など出ないものだ。

 1コーナーのアウト側グラベルには、スピンアウトして来たマシンが5台埋って動かず、そのままリタイアとなった。全車ともタイヤをドライからスタンダード・ウエットという浅溝のタイヤに履き替えたのにもかかわらずアクアプレーニング(路面の水膜でタイヤがグリップを失う現象)の餌食になったのだ。

 レース中に赤旗が提示されたのは、2003年のブラジル・グランプリ(インテルラゴス)以来3年半ぶりのこと。この時もスコールの来襲が原因で、一ヶ所に数台のマシンがスピンアウトし、その中に雨の名手であるM・シューマッハーもいたほどの雨だった。この時はG・フィジケラが先行するK・ライコネンを抜き去って初優勝を遂げている。

 そういえば、近年のニュルブルクリンクでもとんでもない雨のレースがあった。1999年のヨーロッパ・グランプリである。雨で上位陣が総崩れとなり、トップに立ったフレンツェン、クルサード、ラルフ、フィジケラらは勝てずじまい。完走わずか10台、リタイア12台という波瀾のレースを制したのは伏兵ジョニー・ハーバート。マシンはスチュワート・フォードで、スチュワートは3年のF1活動の後99年を限りにチームをジャガーに売却したから、これが最初で最後の1勝となった。

 ところでこの99年のニュルといい、2003年のインテルラゴスといい、雨の混乱でダークホースが勝ったわけで、それはそれで一服の清涼剤となったが、今年の雨のヨーロッパ・グランプリを制したアロンソはそれらとはまったく逆の、いわば横綱相撲で勝った。

 序盤の雨でも動揺せず、終盤の雨に活路を見出し、残り5周となったところで先行するマッサを追い詰めて接触しながらもオーバーテイク。60周レースの最後の5周だけトップに立って逃げ切ったのだ。あわてふためいて雨に墓穴を掘るような手合いとは格が違うとウナらされる一撃だった。

 年に何回か、こうした不順な天候がグランプリを襲う。その時の天候を味方につけられるかどうかも、ドライバーの資質である。

 「これぞモーターレーシング!その最高のひとつだった。今日のこの勝利で、なぜアロンソが2年連続でチャンピオンになれたかが分るだろう」

 アロンソを擁するマクラーレンの総帥ロン・デニスの言葉である。

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