MLB Column from USABACK NUMBER
2005年"PECOTA的"日本人選手活躍予想。
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byKoji Asakura
posted2005/02/04 00:00
野球を数理統計的に解析しようとする学問「セイバーメトリクス」については、このコラムでも何度もふれてきた。セイバーメトリクスを専門とするシンクタンクとして評判が高いのが「ベースボール・プロスペクタス(BP)」だが、BPは個々の選手の「未来」の活躍を予想するコンピュータ・システム「PECOTA」を開発、03年から、毎年、シーズン前に「活躍予報」を発表している。
今年も1月25日に05年のシーズン活躍予報が発表されたので、その中から日本人選手に関する部分を紹介しよう(井口、野茂、木田など、1月25日時点で契約先が決まっていなかった選手やマイナー契約だった選手は含まれていない)。
まず、野手だが、PECOTAの予報は下表の通りである。
野手 | 打率 | 本塁打 | VORP* |
松井(秀) | .287 | 23 | 33.8 (45) |
イチロー | .311 | 9 | 30.7 (58) |
松井(稼) | .268 | 10 | 25.9 (91) |
田口 | .244 | 2 | 0.4 (696) |
* VORP:Value over Replacement Player (控え選手を上回る価値)の略で、選手の総合力の指標とされる。本コラム第37回で説明したので参照されたい。括弧内の数字はメジャー野手897人中の順位。
昨年シスラーの記録を破ったイチローよりも松井(秀)が高い評価をされているが、PECOTAは、各選手の、年ごとにでこぼこのある成績を「均す(ならす)」仕組みになっているので、一年だけの大活躍は「できすぎ」と判定される傾向があるからだ。表には示さなかったが、PECOTAが、「イチローの成績が今年大きく落ち込む確率は56.5%」と著しく高い数字を出しているのも同じ理由からだ。メジャーの成績上位200選手の中で、成績が大きく落ち込む確率が50%を超えると予想されているのはイチローだけなので、日本のファンには気になるところだろう。
続いて投手の予想は以下の通りだ。
投手 | 防御率 | VORP* |
大塚 | 2.61 | 22.9 (53) |
大家 | 3.96 | 18.7 (81) |
多田野 | 4.53 | 17.3 (98) |
藪 | 4.62 | 13.1 (174) |
石井 | 5.04 | 2.7 (737) |
* 括弧内はメジャー投手826人中の順位
大塚の評価が高いが、実は、PECOTAは、04年のシーズン前に、日本での成績だけを基にして、大塚のメジャーでの防御率は2.24になると、「活躍」を予想していた(実際には防御率1.75と大塚はPECOTAの予想を上回る活躍をした)。逆に石井の場合、03年の防御率は3.86とよかったのに、PECOTAは、04年の防御率は5.17になると悪化を予測していた(実際、4.71に悪化した)。BPの研究者は、打者よりも投手の方が、日本での成績をメジャーの成績に正確に換算しやすいと言っているので、PECOTAも、投手の方がよく当たるのだろうか。
「イチローの成績が大きく落ち込む」だの、「石井は今年も活躍は見込めない」だの言われて、腹を立てているファンもいるだろう。けれども、これは私が言っているのではなくて、あくまでも「PECOTA」という、コンピュータ占いの見立てなので勘違いしないように。