北京をつかめBACK NUMBER
明暗分かれた競泳の代表選考。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTamon Matsuzono
posted2008/04/24 00:00
「僕の泳ぐ場所はないなとすっきりしています。代表に選ばれたみんなを応援して、最高の泳ぎができるように祈っています」
4大会連続五輪代表を目指した山本貴司は、代表に選ばれた選手たちにエールを送り、現役引退を発表した。大会中は今までにない不安に襲われていたという。寝ていてふと目覚める、不意にレースが頭をよぎる……。その山本について、背泳ぎ100m落選後、200mで代表入りを決めた入江陵介がこんなエピソードを披露した。
「苦しくて泣いてしまうこともたびたびでした。そんなとき貴司さんの部屋に行っていろいろアドバイスをもらいました」
これまで代表チームのリーダー的役割を果たしてきた山本は、自身不安をかかえる中でも後輩への気遣いを忘れなかった。
あるいはアテネ五輪に続く代表入りを逃がした寺川綾の、100m後の気丈なふるまいも印象的だった。高校新記録を出した酒井志穂を笑顔で祝福したあと、ライトの届かない裏手に入った途端、がっくり崩れ落ち涙を流したのだ。
「(今後のことは)少しゆっくりしてじっくり考えたいです」
期待されながら重圧に呑まれていった若い選手たちも少なくはない。彼らは再び大舞台を目指し、辛い練習に日々取り組むことになる。4年間は長い。だがそれを乗り越えたとき、きっと五輪代表の切符を手につかむことができる。4年前に泣いた背泳ぎの伊藤華英がついに五輪代表となったように。
明暗くっきり分かれた競泳の五輪選考大会は終わり、総勢31名の代表が決まった。2つのリレー種目で派遣記録がクリアされたことから、アテネ五輪よりも11名の増加となった。
代表選手が増えたことは喜ばしい。だが、メダルを考えれば安閑とはしていられない。今年に入り、世界新記録が立て続けに生まれ、世界のレベルは予想を超えて高くなっている。
現段階で確実にメダル圏内といえるのは北島の100、200mの2つと、男子メドレーリレーである。アテネの合計8個にはおよばない。
日本水泳連盟が目標に掲げる5個のメダルを獲得するには、あと一歩のところに位置するバタフライ200mの中西悠子、進境著しい平泳ぎ200mの種田恵、そして背泳ぎの中村礼子、伊藤華英らの活躍が鍵となる。
本大会まであと3カ月と少し。厳しい闘いを勝ち抜いた選手たちには、もう一つ高いところへ昇る力が備わったはずだ。願わくば、より多くの日の丸を。