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弱含みのエンジェルスと
強含みのヤンキース。
~MLBポストシーズンを占う~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byKYODO
posted2009/10/05 11:30
9月27日、3年ぶりの地区優勝を決めたヤンキース。松井秀喜は初の世界一獲得なるか
さて、10月である。戦う側も見る側も、天国にいるのか地獄にいるのかわからなくなってしまう大リーグ・ポストシーズンの到来である。
今季はいったいどう転ぶのか。レギュラーシーズンのデータを反映して、投打ともに安定していたチームが、すんなりと覇者の座に就くのか。それとも例によって、シーズン終盤に調子を上げてきたチームが、余勢を駆って番狂わせを演じるのか。
凡庸な予想はヤンキースかエンジェルスの世界一だが。
まともに考えれば、今季はア・リーグ優勢だろう。それも、東西の雄というべきヤンキースとエンジェルスがディヴィジョン・シリーズで勝ち上がり、その勝者がワールド・シリーズでナ・リーグ王者を倒して世界一の座に就く。これが、最も凡庸にして最も現実性のあるシナリオなのではないか。
ただし、数字は生ものである。たとえばエンジェルスの場合、チーム防御率(9月26日現在、4.56)は、ア・リーグ全体で11位に低迷している。21世紀に入ってからは球団史上ワースト。今季先発のマウンドに登った投手の数は、なんと14名にも達する。
ところが9月のみに限定すると、チーム防御率は3点台前半に改善される。これまでの5カ月が詐欺だったのか、といいたくなる豹変ぶりだが、ウィーヴァー、ラッキー、ソーンダース、サンタナの四本柱に左腕のカズミアーが加わったことで、先発投手陣の層が厚くなったことは歴然としている。「ほぼ全員が3割前後」の打線はもちろん怖い。
エンジェルス投手陣は好不調の波が大きいのが弱点に。
それでも私は、エンジェルスを強く推せない。ついさっき「数字は生もの」といったとおり、現在進行形の投手陣の好調がプレーオフに入っても持続できるかどうか、はなはだ心もとないからだ。
いいかえれば、エンジェルス投手陣は能力の絶対値に疑問を抱かせる。これだけ好不調の波が大きければ、9月好調、10月不調というシナリオも十分に考えられるではないか。
では、もう一方の本命ヤンキースはどうなのか。率直にいって、こちらも先発陣には不安が残る。サバシアの好調はもうしばらく続きそうだが、バーネット、ペティット、チェンバレンの腰がぐらついているからだ。
ただ、今季のヤンキースは、久々に「男の風味」を感じさせてくれるチームになっている。最大の理由は、就任2年目を迎えた44歳の監督ジョー・ジラルディの用兵術と人心掌握術だろう。ジーターとテシェイラの噴火は別格として、カノーや松井やスウィッシャーといった脇役が好調なのはジラルディの采配によるところが大きい。「本塁打20本以上の打者が7人(ジーターがあと3本打てば8人)」という気の抜けなさは、エンジェルスのマシンガン打線よりも凄みがある。
まわりまわって……ヤンキース優勝を本命に。
というわけで、私の本命はまわりまわって「30球団中最高勝率の」ヤンキースに落ち着く。もっとも、本命と対抗をまとめてひっくりかえしそうな穴馬がいないわけではない。ウェインライトとカーペンターの右腕二枚看板を擁し(ピニェイロも復活した)、プーホルスとホリデイの右打者パワーデュオをそろえたカーディナルス(ナ・リーグ中地区)の存在がなんとも不気味なのだ。とくに短期決戦では、投手二枚看板の有無が勝敗を大きく左右する。もしヤンキースの先発二番手がパッとしないようなら、赤い鳥が覇権をさらう可能性はけっして低くないと思う。