MLB Column from WestBACK NUMBER
メジャーにおける、ケガと手術。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byYasushi Kikuchi
posted2004/09/03 00:00
メジャーの取材をしながら、最近続けざまで不幸な出来事に遭遇した。ドジャースの遠征についてシンシナティにいったら、ケン・グリフィー選手が右足太もも腱の負傷で手術を受けるため今季絶望のニュースが待ち受けていた。さらにLAに戻ると、今度はダレン・ドライフォート投手(37)が右ヒザを痛め同じく今季絶望、手術を受けることになった。両選手ともにここ数年は故障が相次ぎ、なかなか本来の力を発揮できないでいる。我々が想像する以上に、無念さにさいなまされていることだろう。
「ケガもベースボールの一部だからね。また元通りプレーできるようにベストを尽くすだけだ」
わずかながら自然治癒の道もあったのだが、自ら手術を選んだドライフォート。彼に限らず、メジャーの選手は手術に対して何の違和感も抱いておらず、現在のメジャー選手から手術経験のない選手を探す方が逆に大変になってきている。以前から日米球界の大きな差として、選手寿命の違いを痛感していたのだが、メジャーの方が選手の故障に対する対策がしっかり整っているのも、大きな要因のひとつではないだろうか。
そこで、今年レンジャーズに所属するダグ・ブロケイル投手を紹介したい。パドレス、アストロズ、タイガースでリリーフ投手として9年間活躍したが、2001年は故障のためマイナーで3試合投げただけ。2年間のリハビリ生活を経て、今年3年ぶりにマウンドに戻ってきた。以前に木田投手(タイガース時代のチームメート)からブロケイルの手術にまつわる話を聞いていたこともあり、本人を直撃してみた。
「手術の数?まず右ヒジのトミー・ジョン手術(腱移植手術の通称。日本では村田兆治さんが最初に受けたことで有名)が2回、その他に内視鏡手術も4回受けている。それと右肩手術が2回に、右手首手術が2回。あと盲腸の手術もあるから全部で11回かな」
盲腸はご愛嬌としても、投手の生命ともいえる右腕に計10回のメスを入れたということだけでも驚かされる。日本であればとうの昔に引退しているかもしれない。
「トミー・ジョンのような手術を受ける場合、他に選択肢はない。あとは引退のみだからね。もちろん引退も何度か考えたことがあった。特に2度目のトミー・ジョンを受けるときはかなり腱が悪い状態だったんだ。とにかく医師と医療技術を信じて完治するのを祈るだけ。医師は治すために最善を尽くしてくれる。あとは自分がカムバックのため最善を尽くすことだけだ」
ブロケイル曰く、リハビリで最も大切なのは「焦り」と「持続力」らしい。
「絶対に焦ってはいけない。医師のアドバイスを厳格に守って、決して無理はしないこと。それと自分の体調を考えながら、できることだけを着実にこなすことに集中した。僕にとってこのスポーツは人生そのもの。野球が続けられることを考えれば、決してやる気が萎えることはなかった」
そしてメジャーの素晴らしさは、今回のブロケイルのように復活を目指す実績ある選手に、惜しまずチャンスを与えてくれるのだ。彼に限らず毎年多くのベテラン選手たちが招待選手枠で春季キャンプに参加してくるのを確認できるのも、メジャー取材の楽しみのひとつといってもいい。
ロジャー・クレメンスやランディー・ジョンソンのように40代選手がいまだ第一線で活躍しているメジャー。日本でも工藤公康投手のような存在が当たり前になる日を待ち望んで止まない。