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From:クラーゲンフルト「旅人とライターの目線。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2007/09/18 00:00

From:クラーゲンフルト「旅人とライターの目線。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

マドリードの街は、旅人としてはまったく魅力がなかった。

しかし今シーズンのレアルのサッカーはそんな気持ちを吹き飛ばすほど魅力的だ。

その後訪れた、日本代表がスイスと対戦したクラーゲンフルトの街では何を感じたか。

 それにしても素晴らしかった。モダンで、鮮やかで、スペクタクル。僕は気がつけば記憶を辿っていた。過去に観戦したいくつかのサンプルと、照らし合わせていた。ここまでワクワクさせられるサッカーは過去にあっただろうか。ノーと言ってしまえば、自らの過去を軽んじるようで怖いのだが、この際、思い切ってノーと言ってしまいたい自分がいることは事実なのだ。

 何の話かって?スイス戦の日本代表の話、ではありません。スペインリーグ第2週、「エル・マドリガル」で行われた対ビジャレアル戦の話。日本では放映権の都合で、放送されていない試合なので、思わず「僕は見たゼ!」と、優越感に浸り、胸を張りたい気分も湧く。嫌なヤツで恐縮です。でも素直な、大袈裟ではない感想なのだから仕方がない。レアル・マドリーは、そこでまさにスーパーサッカーを魅せてくれた。

 なにを隠そう、僕はバルサ派だ。本当は、どこのファンでもない一介の日本人に過ぎないが、思い込み抜きでバルサとマドリーを比べたとき、これまで、バルサのサッカーにシンパシーを抱くことの方が圧倒的に多かったので、敢えてバルサ派を名乗らせてもらうが、少なくともいま現在に限れば、それとは180度異なる心境にある。バルサより断然マドリー。同じ日に、主審の贔屓?でアスレティック・ビルバオに3−1の勝利を収めたバルサが、情けないダメチームに見えてくる。アンリ?悪くはないと思うけれど、旬じゃない。マドリーこそが今季の目玉。敢えて一人、名前を挙げるならばベルント・シュスターになる。よくぞまあ、わずかの間に、かつての臭みを完璧に払拭したものだ。偉い!

 正直言うと、CL中心に各地を転戦する欧州サッカーの旅も、最近は少々マンネリ気味になっている。上位の顔ぶれに変化がないからだ。今季も32チーム中、新顔はセビーリャとスラビアの2チームのみ。初めて訪れる街は減るばかりだ。旅人にとって、これは決して歓迎すべき傾向ではない。だが僕は、旅人の一人ではあるけれど、中田英クンではない。サッカーを中心に取材活動を行うスポーツライターだ。イベントを無視して飛び回る100%の自由は与えられていない。

 つまり、スポーツライター目線では合格でも、旅人目線では疑問を抱かずにはいられない街にも出向かなければならない宿命を抱えている。訪問回数が増えれば、街への新鮮味は自ずと薄れる。そこで大当たりの試合に出会えれば、旅への不満は途端に解消されるが、好試合に出会う確率は必ずしも多くない。これが現実だ。

 マドリードは旅人目線で言えば、不合格の街になる。スペインではワースト。試合を観戦し終えると、僕には翌日の朝イチで次の街へ向かう習慣があるほどだ。ここ数年は、マドリーのサッカーそのものもいただけなかった。大会社病丸出しのシンパシーを抱けない大雑把なサッカーをしていた。サッカー目線でも、避けて通りたい街のひとつになっていたのだ。

 しかしいまは違う。一刻も早く、サンティアゴ・ベルナベウに駆けつけたいワクワク気分にある。電車好きの僕には、バルセロナ〜マドリード間に、新幹線が開通したことも、モチベーションのアップに輪を掛けている。旅人目線でも、マドリードは少しばかり上向きの状態にある。

 バルセロナから新幹線に乗っていざマドリードへ、を次回のお楽しみにするならば、今回のお楽しみは、バルセロナから飛行機に乗ってクラーゲンフルトへ、である。

 フランクフルト経由で当地に降り立った瞬間、僕はその寒さに仰天させられた。吐く息は真っ白。晩秋と言うよりもはや冬。決して悪い感じではない。その非日常的な気候に、旅人気分は、のっけから触発された。

 もっとも、クラーゲンフルトの街そのものには、他のサッカー関係者が抱いたであろうとびきりの新鮮さはなかった。空港に降り立った途端に襲われた感覚は、むしろ懐かしさだった。

 最後の訪問からは、ずいぶん時間が経過しているが、訪問回数はこれが4度目のはずである。すべて目的はスキー取材だった。日本代表の宿舎があるバート・クラインキルヒハイムにも、隣町のフィラハにも出かけていった経験がある。

 そう、フィラハで行われたジャンプのワールドカップでは、原田雅彦が途方もない鳥人的なジャンプで優勝したシーンも目撃している。足下が乱れながらも着地に成功した瞬間の姿は、未だ僕の脳裏にしっかり刻まれている。

 圧倒的な風景の中で行われるスキーの取材は、旅人目線には大合格だった。当時は日本人選手も抜群の強さを発揮していたので、ライター目線でも大合格だった。

 ではいったい、今回のサッカー取材はどうだったのか。少なくとも旅人目線では大満足に値した。空気は美味しいし、アルプスの風景は綺麗だし、夜空には満天の星が輝くまさにジェットストリームの世界が広がっていたし……。

 サッカー的にはどうだったのか。

 3大陸トーナメント優勝。強豪スイスに逆転勝ち。この事実に、素直に喜びたくなる自分がいることも確かだが、僕はご存じの通りあまのじゃくだ。それを遥か上回る量で、兜の緒を締めたくなる気持ちに襲われる。「見るべきは前半。後半はテスト」という、近年の国際親善試合の常識に照らせば、スイス戦は0−2こそが正当な評価になる。日本が喜ぶ量と、相手のスイスが落胆する量との間には、大きな隔たりがある。そこの所を知らないと、痛い目に必ず遭う。僕はそう思う。

 というわけで、旅人としても、あまのじゃくを装うサッカーライターとしても、満足いく旅だったわけだ。

 スイス戦の取材を終え、ホテルに戻ると、時刻は深夜12時を回っていた。

 翌朝の出発は午前4時45分。同じホテルに泊まる、僕と取材仲間の計3人は、睡眠もそこそこに、車でクラーゲンフルトから320キロ離れたウィーンの空港を目指した。その間、ドライバーのカメラマンKはもちろん、助手席に座る僕も、リアシートに座るライターのIも、瞼を閉じることはけっしてなかった。満天の夜空が白み始め、オレンジの朝焼けを迎えるオーストリアの大地に、感激しっぱなしだったからである。エル・マドリガルで見たレアル・マドリーにも共通する鮮やかさだったと言えば、少々嘘くさく感じるかもしれないが、これが案外そうでもないのである。似ている。だから、旅人はやめられない。サッカー観戦もやめられない。

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