プロ野球偏愛月報BACK NUMBER
クラブ野球が燃えている。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2007/10/31 00:00
9月7日から4日間、グッドウィルドームで行われた「第32回全日本クラブ野球選手権大会」を3日間見た。その戦いぶりは、非常に興味深かった。8月24日から9月4日まで行われた社会人(企業)チームの大舞台、都市対抗とくらべると、まずレギュラーとして出場している選手の年齢が若い。この大きな相違点はクラブチームが将来、プロへの供給源となることを連想させる。
企業チームは、アマチュア球界最高レベルの完成されたプレーが魅力だが、今年のようにレギュラーの年齢層が高いまま推移していけばプロへの供給源として機能しなくなる。反対にクラブチームは、所属チームに「恩返ししなくてはならない」とか「まだチームに貢献していない」という、社会人選手にありがちな遠慮がない。目的はシンプルに「プロ野球選手になること」だから、プロからオファーがあれば「はい行きます」と即答できる。大学を中退したり、企業チームを退部・退社して四国独立リーグやクラブ野球のチームに入部する選手は今後、益々増えてくるだろう。
さて、クラブ野球選手権に出場したチームのレベルだが、低くては話にならない。その実力だが、想像していた以上に高かった。全足利、茨城ゴールデンゴールズ、NOMOベースボールクラブ、倉敷ピーチジャックスの4チームはとくに魅力ある選手が多く、見ていて飽きなかった。
「投手だけいい」というのが、たとえば大学野球の地方リーグにありがちな現象だが、この4チーム(+1チーム)には投手も野手も好選手が揃っていた。名前を挙げていこう。
<投手>
本間裕之(全足利) 右右 186/83 聖光学院→元シダックス
北野偉也(茨城ゴールデンゴールズ) 右右 180/82 大阪桐蔭高
須田健太(NOMOベースボールクラブ) 右左 182/78 平安高
宇高直志(NOMOベースボールクラブ) 右右 180/72 岡山大
良川剛浩(NOMOベースボールクラブ) 左左 178/72 桜宮高
石田竜也(倉敷ピーチジャックス) 左左 184/83 岡山東商→JFE西日本など
<内野手>
山田 諒(茨城ゴールデンゴールズ) 右左 165/60 流経大柏高
福元淳史(NOMOベースボールクラブ) 右左 176/75 中大
本郷剛士(NOMOベースボールクラブ) 右左 176/85 大阪学院大
三宅陽介(倉敷ピーチジャックス) 右左 183/83 玉野光南高→JFE西日本
笠間威志(Hard Ball Club 金沢) 右両 179/82 静岡大
<外野手>
岡田幸文(全足利) 左左 176/68 作新学院
白滝裕基(NOMOベースボールクラブ) 右右 180/80 上宮太子高
れっきとした元ドラフト候補の石田や三宅、あるいは国立大卒の宇高、笠間のように多士済々の顔ぶれである。どうして彼らがドラフト候補になり得るのか。その確かな答えはたった1つだけある。それは「出場機会が多い」ということ。
たとえば大学卒の逸材が多いトヨタ自動車に入ったら、彼らは埋没しただろう。しかし、悲しいことにクラブチームは選手層が薄い。だから数少ない好選手の彼らはチームから信頼され、少しくらい調子が落ちてもメンバーから外されることがない。プロ野球の巨人と日本ハムをくらべても同じことが言える。
ストップウオッチを用いた野手の脚力もせっかくだからここで紹介しよう。
福元…… 中前打4.25(郡山戦)、二ゴロ4.16、二ゴロ4.24(全足利戦)
白滝…… 三塁打12.00(郡山戦)
岡田…… 二ゴロ4.02、遊撃失3.90(赤崎戦)、一塁失3.96、三ゴロ4.02(新日鉄大分ク戦)、二ゴロ4.00、中飛失8.03、バント3.97(NOMO戦)
山田…… バント失3.60、遊安打4.01、バント安打3.71(NTT東北戦)
本間、須田、福元、本郷、山田のドラフト解禁は来年以降。彼ら野手の3人はプロのスカウトもぐりぐりにマークしているだろう。そして、今年の注目選手はスピードガン表示が低く抑えられているグッドウィルドームでMAX142キロをマークした宇高を筆頭に、NOMOベースボールクラブ戦「あと1人でノーヒットノーラン」まで迫った北野など投手に多い。まさに投手と野手の競演。
野茂英雄や萩本欽一が火付け役になって熾(おこ)したクラブ野球の火がこれからも絶えることなく燃え続けていけば、日本の野球は今以上に奥行きのある高いレベルに向かって進んで行くことは間違いない。