“絶好調男・中畑清”伝説の系譜にある藤村のプロ根性。

　先日、ある強豪校の4番打者を取材した。

　プロも十分にねらえる逸材である。だが、遠投距離を聞くと「あんまり（肩が）強くないので……」と苦笑いを浮かべた。

　それではアピールにならないと思い、「とりあえず100メートルぐらいにしとくか」と振ると、「いや、そんなにないです……」とさらに困ったような顔を浮かべた。

　すると、そんな4番打者を見るに見かねた監督がピシャリと言った。

「そういうときは、110メートルです、ぐらい言うとったらええんじゃ」

　同感だった。

　些細なことではあるが、それぐらいの図々しさがなければ、プロでは通用しないと思うのだ。

　かつて巨人の中畑清は、あるコーチにこんなことを言われたという。

「調子はどうだ？　って聞かれて、下を向くようなヤツを使いたいとは思わない」

　以来、中畑はどんな大スランプに陥っているときでも「調子は？」と聞かれたら、「絶好調です！」と答えるようにしたのだ。

　これが「絶好調男」の誕生秘話である。

　代走要員としてベンチに藤村と加久が座っていたとしたら。100人中100人の監督が迷わずに藤村を選択することだろう。

　5秒8です――。

　藤村がそう即答したときの雰囲気が、中畑が「絶好調です！」と言ったときの表情と重なった。