MLB Column from USABACK NUMBER
カート・シリングのバリー・ボンズ「口」撃
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGetty Images/AFLO
posted2007/05/17 00:00
前回は、レッドソックスのエース、カート・シリングが、テレビ・アナウンサーの「ソックス血染めの快投は嘘だった」という粗忽な発言のせいで不愉快な思いをさせられた話を紹介したが、5月8日、そのシリングが、自らの「おっちょこちょい」発言で物議をかもすことになった。
ラジオ番組に電話出演した際、ハンク・アーロンの通算本塁打記録更新を目前としたバリー・ボンズについて、「ステロイド使用・不倫・脱税について本人が認めている」と「口」撃、メジャー史上もっとも価値が高いとされている記録が破られようとしているのに周囲が盛り上がらないのはボンズの不品行のせい、となじったのである。
ボンズの不品行の数々については、昨年、サンフランシスコ・クロニクル紙記者のマーク・ファイナル・ワダとランス・ウィリアムズが著した『ゲーム・オブ・シャドウズ』にその詳細が記され、当地では「周知の事実」になっていると言ってよい。同書は、元愛人など、ボンズをよく知る人々多数からの丹念な取材に基づいて書かれただけに、その信憑性は極めて高いとされているし、同書の信憑性の高さを裏付けるかのように、発売当時、「名誉毀損で著者を訴える」と息巻いていたボンズの弁護士も、1年以上経つというのに、いまだに何の訴訟も起こしていないのである。
そういった意味で、シリングがボンズを「口」撃した発言の内容は、多くのファンが信ずるところを代弁しただけなのだが、問題は、ボンズ自身がステロイド使用・不倫・脱税について認めた事実はなく、シリングの発言は「著しく事実と反していた」ことだった。
シリングは、発言の翌日、自身のホームページで「事実と異なる発言で迷惑をかけた」と全面謝罪する羽目に追い込まれたが、「血染めのソックスは嘘」事件に際して、「もっと正確な報道をしろ」とメディア一般を厳しく叱責した直後だっただけに、「格好悪い」結果となったのだった。
しかし、スポーツ専門テレビESPNの調査などで、野球ファンの半数以上が「ボンズに記録を破って欲しくない」と望んでいることが明らかになっているように、シリングの発言に、「よくぞ言ってくれた」と快哉を叫んだファンが多かったのも事実である。実際、フィラデルフィア・デイリー・ニューズ紙のコラムニスト、ジョン・スモールウッドや、FOXテレビの女性野球アンカー、ジニー・ゼラスコなど、「シリングは謝る必要などなかった」と公言する向きも多いのである。
一方、ボンズだが、シリングの「口」撃をおもしろく思ったはずもないだろうが、いまのところは、ダンマリを決め込んでいる。現在の本塁打量産ペースが続いた場合、アーロンの記録更新は6月中旬となる可能性が高いが、ジャイアンツは、6月15−17日の3日間、リーグ間交流戦でフェンウェイ・パークを訪れることになっている。記録をかけた場面で、シリングとの「遺恨」対決が実現すれば、最高に盛り上がること請け合いなのだが…。