総合格闘技への誘いBACK NUMBER
ワニ男の寝技ワールド。
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph bySusumu Nagao
posted2008/08/15 00:00
7月21日に行われた『DREAM ライト級グランプリ』の結末に驚きを持った人は少なくなかったのではないだろうか。
ついに誕生するDREAMの象徴となるチャンピオン。その栄光の座に輝いたのは、下馬評を覆しリザーブマッチから勝ち上がってきたヨアキム・ハンセンだった。決勝へ進んだもう一人は本命の青木真也であったが、疲労を蓄積するトーナメントの過酷さに足を掬われるように敗退してしまった。まさかの結末。青木は、奇しくもPRIDEの地上波放送がなくなったタイミングで活躍し始め、またDREAMがスタートしてもアクシデントによりJZ・カルバンとの試合を幾度も戦うなど苦難が続いていた。そして今回のライト級GP決勝、寝技世界一との呼び声高き実力を満天下に知らしめ、青木はようやく一番日の当たる場所で輝くかと思われた。が、またしても勝利の女神は微笑まなかった……。不運なのか試練なのか、いずれにせよ物語は続くわけであり、青木という選手の終着点はどこなのか今後も見守ってゆきたい。
さて、次のDREAMの看板となる戦いは、9月23日に開催される『DREAM.6 ミドル級グランプリ』だが、カードは以下の通りになっている。
メルヴィン・マヌーフVS.ゲガール・ムサシ
ホナウド・ジャカレイVS.ゼルグ“弁慶”ガレシック
桜庭和志ら日本人選手数名がトーナメントに参加していたが、結局ひとりも残ることができず、また秋山成勲は故障によりトーナメントそのものにエントリーしていない。いかんせんこの馴染みの薄い外国勢の面々では、感情移入が難しいというか、盛り上がりに欠けるような気がしてならない。
ただ、トーナメントを楽しむために注目する選手を一人挙げるとするならば、ブラジル出身のホナウド・ジャカレイになるだろう。ジャカレイとはポルトガル語で“ワニ”の意。その異名にふさわしく、食らいついたら放さない、粘り強くパワーのある寝技が魅力的な選手である。PRIDEやHERO'Sの出身というわけではなく、いわばライト級のエディ・アルバレスのようなフレッシュさが、DREAMの選手らしく好感をもてる。
グランプリ1回戦では、イアン・マーフィーに対し圧倒的な寝技を展開し一本勝ちを奪い、2回戦は本コラムでも紹介した“笑いながら殴る人”こと、ジェインソン“メイヘム”ミラーから3−0の判定勝ちを奪っている。ミラーの打撃にいささか苦戦し一本こそ取れなかったが、抜群のポジショニングと怒涛の寝技でしっかり試合を作ったクレバーな勝利だった。
ジャカレイはMMA戦歴10戦(9勝1敗)のまだまだキャリアの浅い選手だが、バックボーンにある柔術やグラップリングの実績は半端ではない。
幼い頃に始めた柔術ではメキメキ頭角を現し、05年には柔術の世界選手権であるムンジアルで5年連続優勝という快挙を遂げ、また同年に開催されたグラップリング最高峰のアブダビコンバットでも優勝を飾っていることから、世界最高峰の寝業師といって過言ではないだろう。あのホジャー・グレイシーとはライバル関係にあり、柔術やグラップリングの大会で互角の攻防を繰り広げている。
簡単に言えば、ミドル級の青木真也であり、ジャカレイのアイディア溢れる動きからは、一秒たりとも目が離せない。ストライカーのような派手さはないが、寝技への理解の深い日本のオーディエンス、そして土壌ならば、人気の出る選手ではないだろうか。
ジャカレイ以外の3選手は、すべてストライカー。青木戦で消化不良だった人は、めくるめくジャカレイのワニのごとくしつこい寝技ワールドにぜひ期待して欲しい。さて、ジャカレイは果たしてDREAMの象徴になれるのか?