日本代表、2010年への旅BACK NUMBER
川口能活の臥薪嘗胆
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byToshiya Kondo
posted2009/04/18 07:01
キャップ数現役最多の116を誇る、GK川口能活の名前が日本代表から消えた。Jリーグ開幕2試合でジュビロ磐田が10失点を喫した影響もあって、バーレーン戦のメンバーに選出されなかったのだ。
低迷するチームのなかで苦闘する川口の現状をチェックすべく、4月11日のジェフユナイテッド千葉戦に足を運ぶことにした。
開幕2戦目に自身のキャッチミスで失点を招いたために、守備崩壊の象徴とされてしまった川口だが調子自体は悪くないように見えた。
前半19分、右FKのボールが味方の足に当たって不運なオウンゴールで先制されたものの、実に落ち着いていた。ミドルシュートにはことごとく反応。少しバタつきかけた最終ラインには冷静に指示を送り、今季初めて後半を無失点で乗り切っている。
川口が仲間へ投げる「声」というボール
“川口ウオッチング”をしてみて、ひとつ気づかされたのは、「声」の多さである。ひと昔前までは、鬼のような表情で周囲を叱り飛ばす「声」が特徴的であったが、今では奮起を促すようなものが多い。
自分の足に当ててオウンゴールとなってしまった那須大亮には、すぐに駆け寄って「気にしなくていいぞ」と前を向かせ、押し込まれそうになると決まって「集中!」などと叫ぶ。
頻繁にではなく、効果的に川口が口を開くことで、最終ラインがピリッとするような雰囲気があった。また、自陣において味方がピッチに倒されてしまえば、なにやら一声かけて自分のエリアに戻るという気遣いさえある。
ゴール前に大きく構えた川口の冷静な「声」が、自信を失いかけているチームを奮い立たせていることは間違いなかった。
試合後、「声」について川口に聞いた。
「味方にミスが起こったとしても、下を向かせないで、次に、と気持ちを向かわせるような雰囲気づくりを自分では心掛けている。起こってしまったことは仕方がないんでね。ポジティブなことを言うようにしていますね。今は結果が出ていないけど、辛抱強くうしろから支えていくことが大事だと思っている」
代表にこそ欲しい燃えるような「キャプテンシー」
千葉と引き分けて、最下位脱出はならなかった。だが、目先の試合で一喜一憂しないのは、あまたの経験ゆえだろう。
オシムジャパンでも岡田ジャパンでもキャプテンマークを巻いてきたのは、川口のキャプテンシーが支持されてきたからこそ。指揮官の岡田武史は「グループとして重要な選手だと考えている」と、落選があくまで暫定措置であることをにおわせている。
逆境に身を置いたときに、存在感を発揮してきた男である。川口の代表復帰はそう遠くはないはずだ。