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東洋大の黄金時代が到来か!?
全日本大学野球選手権を総括する。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/06/18 08:00
エース・藤岡貴裕(前列左から2人目)を中心にガッツポーズで優勝を喜ぶ東洋大ナイン
走攻守の3拍子が揃った慶大・伊藤はリーグのスター。
外野手は天願陽介(富士大)、加藤翔平(上武大)、伊藤隼太(慶大)、小田裕也、緒方凌介(ともに東洋大)、手銭竜汰(九州共立大)の中から、加藤、伊藤、手銭を選んだ。サヨナラ2ランを放った東洋大優勝の立役者・小田や、九州共立大戦で満塁ホームランを放った天願を外すのは忍びなかったが、センス抜群の加藤、俊足が断然光る手銭、そしてドラフト1位候補・伊藤の3人で私の中ではぴたりと収まった。
加藤は1回戦の道都大戦、本格派・佐藤峻一の変化球に対し最短でヘッドを出して捉え、鋭い打球の中前打を放った第1打席が鮮烈に印象に残る。手銭は2回戦の同志社大戦で一塁到達3.85秒(二塁ゴロ)、準々決勝の富士大戦で3.89秒(投安打)と、大会屈指の俊足を記録。中堅手としての守備もトップクラスで、1年生とは思えない場慣れした雰囲気を放射していた。
伊藤はあえて説明するまでもない。今大会は不振だったが、打てば弾丸ライナー、走ればぐんぐん加速する迫力、守ればライトからホームへ低い球筋のワンバウンド返球と、走攻守の3拍子が高いレベルで揃っている文句のないスタープレーヤーである。準優勝の悔しさは秋の明治神宮大会で晴らすほかない。
ドラフトの目玉、東洋大・藤岡貴裕以外にも好投手は百花繚乱。
最後に候補者が多い投手の顔ぶれを紹介する。先に紹介した佐藤峻一(道都大)を先頭に、伊藤和雄(東京国際大)、福谷浩司、山形晃平(ともに慶大)、藤岡貴裕、内山拓哉(ともに東洋大)、辻孟彦(日本体育大)、宮川将、松葉貴大(ともに大阪体育大)、大瀬良大地(九州共立大)と、10人の名前が出てくる。
1人では寂しいので左右1人ずつを選ぶと、藤岡と福谷で即決。藤岡は道都大戦で最速152キロを記録しているように、ストレートの速さには定評がある。しかし、ストレート主体に力で押していくタイプかと言うと違う。カーブ、スライダー、フォークボール、カットボールと多彩な変化球を操り、その使いどころにも卓越したうまさがある。
低めストレートを打者の頭に刷り込んだと見極めれば、その軌道からボールゾーンに落とすスライダー、フォークボールを投げ込み打者の空振りを誘うなど、考え方が大人。さらに打者のタイミングを微妙に外すステップワークを意識的に行い、今プロで活躍している伊志嶺翔大(東海大→ロッテ)に「バッターは差し込まれることが多い」と言わせた。
福谷は藤岡とはタイプが異なり、正真正銘の剛腕と言っていいだろう。「フォームがきれいでまとまっている」と書くと、小ぢんまりした好投手タイプを想像しがちだが、福谷のストレートは伸びがありながら、打者のバットを押し込む迫力がある。
大・小2つのスライダー以外でも、打者近くで強烈なブレーキがかかったあと落ち込んでくる135キロ程度のチェンジアップのキレが素晴らしく、今春のリーグ戦は全13試合中の12試合でリリーフ登板を果たし、防御率0.59を記録、投手成績1位に輝いた。