Column from GermanyBACK NUMBER
カーン、引退の危機?
text by
安藤正純Masazumi Ando
photograph byAFLO
posted2004/10/18 00:00
守護神オリバー・カーンの調子が良い。チャンピオンズリーグでアヤックスを完封し、続くブンデスリーガのブレーメン戦ではマン・オブ・ザ・マッチに選ばれる活躍を見せた。
ブレーメン戦では興奮してクローゼを突っつき大ブーイングを浴びたが、「そんなのは毎度のこと。この程度でいちいち文句を言われる筋合いはない」と軽く受け流した。ここらへん、実にカーンらしい。
クラブでも代表チームでも、カーンは不動のナンバーワンGKである。誰も彼の座を脅かすには至っていない。しかしカーンも35歳。そろそろ……なのだ。
バイエルンに移籍してちょうど10年が経った。その間、あらゆる栄光を手にした。金は曾孫の代まで遊んで暮らせるほど貯めた(はず)。しかし本人は「絶対に06年W杯に出場したい」と言い張り、あと2年は現役を続けるつもりである。
こうなると、ポジション争いをする選手は面白くない。反逆の一番手はアーセナルのレーマンだ。つい先日、雑誌のインタビューで「06年W杯でゴールマウスに立つのはオレだ」と、カーンに宣戦布告をした。
レーマンにしてみれば、「プレーも私生活も安定しないカーンなんかより、プレミアリーグで堅守を誇るオレ様のほうが実力は上」の意識が強い。アーセナルが1年以上、国内リーグで無敗記録を更新しているのも彼の自信に拍車をかける。
カーンは過去数年間で、あまりに多くのものを手に入れすぎた。その結果、心にスキが生まれ、肝心なときに大ミスを連発するようになった。昨季のチャンピオンズリーグではロベカルのなんでもないFKを取り損ねた。DFBカップでは2部チーム相手にポジショニングミスを犯した。5ヶ月のブレーメン戦では小学生でも取れるボールを後逸し、地元でブレーメンのリーグ優勝を許してしまった。いずれもカーンが敗戦の責任者だった。
彼の油断はそれだけで終わらなかった。身重の妻がいるというのに浮気したり、1日で3度もスピード違反を犯して免停を食らったり、ディスコで派手に酒をあおり、葉巻を吹かす姿が写真誌に掲載されたりと、真面目人間だったはずが何だかおかしくなった。
こういったことが重なり、さすがのカーンも“本業の大切さ”に目覚めたのだろう。だからいま、好調なのかもしれない。つまりカーンは、「美食も慣れれば美味くない」ことにようやく気づき、基本に立ち返ったというわけだ。
ではカーンはこのまま06年W杯まで正GKでいられるだろうか?
断定できないが、可能性は5分5分だと思う。最後のチャンスに賭けるレーマンは11月にはカーンと同じ年齢になる。シュツットガルトのヒルデブラント(25歳)は未来型のGKとして評価はうなぎ登り。同じバイエルンには「10年に一度の逸材」と言われるレンジング(22歳)がカーンの後釜を狙っている。ということで、カーンは崖っぷちに立っているのだ。
引退後はバイエルンGMのポストが約束されている。仮にあと2~3回、決定的なミスを犯すようなことがあれば、ピッチではなく観客席で06年W杯を味わうことになるだろう。