オリンピックへの道BACK NUMBER
浅田真央の大いなる賭け。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2009/04/01 22:45
「あそこまで難しいプログラムにする必要があるのでしょうか」
先週行なわれたフィギュアスケート世界選手権での浅田真央を観て、ある記者がこうつぶやいた。
浅田はショート・プログラム(SP)でミスをして3位と出遅れ、フリー・スケーティングでもトリプルアクセルで転倒するなどして4位に終わった。表彰台を逃すのは05-06年シーズンにシニアデビューして以来初めてのことだ。
今シーズンの浅田は、SPでいつもつまずき、フリーでも完璧であったことはない。それがシーズン最後の世界選手権で如実に現れたといえる。
大きな原因は、「男子並み」と評されることがあるほど高難度の演技構成のプログラムにある。2度のトリプルアクセルを象徴に、難しい要素をこめたきわめて高いレベルのプログラムに挑んできた。そのために最後まで完成度は上がらず、ミスにつながりやすくなっていたのが今シーズンだった。
その挑戦は、今回の成績からすれば失敗だったといえる。
だが、別の角度からみればどうだろうか。
世界選手権を制したのはキム・ヨナだが、女子史上初の200点を超える207.71の高得点での優勝だった。完璧であったわけではない。フリーでは3回転ジャンプのうちの一つでまわりきれず、同じ種類のスピンを2度するミスもおかした。にもかかわらずフリーでも高得点を叩き出したのである。
キム・ヨナはこの2シーズンほど、大きく構成をかえず、自分の得意とするところに磨きをかけてきた。その成果が得点に表れている。採点のうち技術点はその技の基礎点に対し出来によって加・減点するが、一例をあげれば、キム・ヨナの、2回転ジャンプの一つダブルアクセルは大きく加点され、3回転ジャンプのうちのいくつかと変わらないほどの点数となる。
素晴らしい演技だったが、長期的戦略が功を奏したともいえるだろう。
200点を超えるほど完成されたキム・ヨナに勝つには、彼女が自滅しないかぎり、キム・ヨナを上回る高難度のプログラムを演じきるほかない。あまり大きな差がないレベルのプログラムでは、完成度とジャッジの高評価を考えれば、キム・ヨナに勝つのは難しい。
浅田が今シーズン、高難度のプログラムに挑戦したのは、来年2月のバンクーバー五輪を見据えてのことだ。そして、キム・ヨナへの勝利ということを考えれば、方向性が間違っていたとはいえない。
問題は時間である。理想は高くても現実が追いつかなければ意味はない。あと1年弱で間に合うかどうか、習得できるかどうかを見極め、必要に応じてプログラムを修正すること。
バンクーバーで目標とする表彰台の頂上に立てるかどうかは、そこにかかっている。