アテネ五輪コラムBACK NUMBER
【特別連載 山崎浩子のアテネ日記 第6回】
前半戦終了~「獲らなきゃ」から「獲りたい」へ。
text by
山崎浩子Hiroko Yamasaki
photograph byHiroko Yamasaki
posted2004/08/23 12:57
暑い。体が溶けるほど暑い。コンクリートの上で瞬時に目玉焼きを作れるぐらいの暑さで、日傘を差していても、アスファルトからの照り返しで焦げてしまいそうなほど。女子マラソンが行われたのは、そんな暑さの中だった。
走っている途中で嘔吐する選手もいれば、金メダル最有力候補とされていたラドクリフまでもが途中で足を止め、結局16人が脱落した。そういう苛酷な状況を乗り越えて金メダルを獲得したのは、日本の野口みずき。
高橋尚子がアテネ代表から漏れたことで、彼女らにかかるプレッシャーは相当大きかったはずである。下手なレースをすれば「やっぱり高橋を出しておけば良かったんだ!」と言われるのは目に見えている。期待されて期待通りの活躍をする凄さ。これには感服するばかりである。
それにしても、柔道の野村忠宏、谷亮子、水泳の北島康介、体操男子団体……と依然メダルラッシュが続いているが、今大会は野口同様、期待された選手が期待されたとおりの活躍を見せているのが特徴である。
かつてはプレッシャーに弱いとされていた日本人が、堂々と闘い、確実にメダルをものにする。いったい以前と何が変わったのだろうか。
メンタル面を指導するスタッフをつけるなど、選手のサポート体制が整ってきた点も、一つの要因として挙げられるだろう。が、なんといっても一番の特徴は、自分自身で「メダルを獲る」と公言をする選手が増えたことである。
他からメダルを期待され、「メダルを獲らなきゃいけないのではないか」と思うようになったのでは、それはただの重荷にしかならない。自分にそんな力があるのかどうか自信がないまま、「金メダル」という言葉だけが頭にこびりつき、過度の期待に押しつぶされてしまうのである。
しかしいまの選手たちは「メダルを獲らなきゃいけない」ではなく、「メダルを獲りたい」のである。自分の力を確信し、もっと練習すれば金メダルを獲れないはずがないと思い、誰よりも自分自身が、メダルを期待している。
だから自然と練習を追い込める。心の底から金メダルがほしくて、そのためにはどんな努力もいとわない。「獲らなきゃ」ではなく「獲りたい」という気持ちの違いは、選手たちを挑戦的にさせ、受動的ではなく能動的に前進していけるのである。
さあ、後半戦。自分自身がメダルを期待しいる選手たちの活躍を、じっくりと見てみようではないか。