Column from SpainBACK NUMBER
代表にラウールは必要か。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2007/10/22 00:00
「以前はラウールの調子が良くないことをルイス(・アラゴネス=スペイン代表監督)も申し立てることができたけど、今現在のラウールは一番いい時期だ。ビジャがケガをしたあと、ラウールが代表に呼ばれるべき。彼がスペイン代表にいないのは理解できないよ。これは個人的な意見だけどね」
スペイン代表にラウール・ゴンサレスが選ばれないのはおかしい、とグティはいう。ふたりは10年以上一緒にプレーしてきた仲だ。グティにしてみれば、ラウールがビジャ、フェルナンド・トーレスに続く3番手にも入れないのは納得いかないのだ。
代表合宿地、マドリッドでも「ラウールを使え」という声が飛ぶ。ルイス・アラゴネスはファンにこう応えたという。
「ラウールは何度W杯に出場した? 3回。ユーロには? 2回。ではラウールは何度W杯をモノにしている? ん?」
まったく、ルイス・アラゴネスは相変わらず口が悪い。世論を敵に回し、これで、ラウール待望論に火がついた。
だが、ルイス・アラゴネスがビジャの代わりにスペイン代表に招集したのは、もうひとりのラウールだった。ラウール・タムードだ。リエラとルイス・ガルシア、タムードと3選手が代表に選ばれたエスパニョールにしてみれば歴史的なことで、しかも10月13日に行われたEURO予選、デンマーク戦ではリエラとタムードが揃ってゴールを決めた。
ルイス・アラゴネスがラウールを呼ばないのには、はっきりとした理由がある。スピードが落ちたこと、である。それにレアル・マドリーでのラウールも、調子が良かったのはチャンピオンズ・リーグのヴェルダー・ブレーメン戦ぐらいだというのだ。
残りのEURO予選に呼ぶまでもない。
マスコミとスペイン国民はラウール待望論を発するが、ルイス・アラゴネスの選択は正論だろう。しかも、サッカー協会のスポーツ・ディレクターに就任したフェルナンド・イエロが側近でいるからして、デタラメな決断でないことは確かである。
イエロのサッカー協会入りは、かなりのプラスだ。ラウール以上の効果といっていい。若手とベテラン、さらには監督とのパイプ役となり、選手の悩みも聞けるし、意見も交換できる。これほどの適任者はそうそういないだろう。
また、「ラウールは将来、神話となるだろう」と言っているイエロとラウールは親友でもある。もしかすると、直々にラウールから話を聞いているのかもしれない。
「もう、スペイン代表には戻らない」、と。
チャンピオンズ・リーグ、スペイン・リーグ、さらには国王杯を戦わなければならないレアル・マドリーのキャプテン、ラウールにとって、EURO予選にまで戦いの場を広げる余裕はないだろう。
だから、親善試合のフィンランド戦当日、ラウールはテニスコートを眺めていた。マスターズ・マドリードの男子シングルス2回戦に出場するナダルを応援していた。
いまの代表をTVで生観戦するよりも、ナダルを選んだのだ……。
ちなみにルイス・アラゴネスのスペイン代表には、さらにもうひとりラウールがいる。バレンシアのラウール・アルビオルだ。
3年前、バレンシアからヘタフェにレンタル移籍が決まったアルビオルは、マドリッドへ移動中に交通事故に巻き込まれた。手術は成功したが、いっときは昏睡状態にまで陥ったという。もう、サッカー界には戻れないかもしれない、とまでいわれた。
だが、2004−2005シーズンも半分を過ぎた頃、彼は見事にカムバックを果たした。辛いリハビリを得て、レアル・マドリーとのダービーではゴールまで決めたのだった。
いまのスペイン代表にはふたりのラウールがいる。けれども、ラウール・ゴンザレスの名前はない。
悲しいかな、“本家”ラウールがいなくても、スペイン代表は変わらない。むしろ、いまのスペインはドイツW杯のときよりもリズミカルである。フィンランド戦の中盤のボール回しには、鳥肌が立ったほどだ。でも、失笑するほど、ゴールは決まらない。セットプレーでも決まらない。
今回のEURO予選で、スペインはもっともコーナーキックが多い国だという。トータル89回。9分に1度はコーナーキックを蹴っている計算だ。しかしながら、コーナーからのゴールは1度もない。
誰が入っても、誰が抜けても、スペインの色はカワラナイ。