Column from Holland & BelgiumBACK NUMBER
議員ビルモッツのもう一つの政策。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byALL SPORT/AFLO
posted2004/09/10 00:00
じっとしていられない男というのは、どこの国にもいるらしい。
マルク・ビルモッツは、1年4カ月前に国会議員になったばかりだというのに、今季からサントロイデンの監督に就任したのだ。それも、ただの監督ではない。イングランド式を真似て、テクニカルマネージャーも兼任するのである。
「私は戦術と移籍に全責任を持つ、監督兼マネージャーだ。5年間で財政の基盤を安定させて、常に若手が育ち、新戦力がやってくる一流のクラブを作り上げたい」
サントロイデン(通称STVV)は強豪ではなく、まして中堅クラブでさえもない。5カ月前には破産寸前まで追い込まれていたし、昨季の成績は13位だ。この弱小チームを救うべく立ち上がったのが、元ベルギー代表のビルモッツだった。
「私はSTVVでプロのキャリアをスタートさせた。全てがここから始まったと言っていい。確かにSTVVは優勝も狙えないし、ヨーロッパの大会に出場することも難しい。だが、私の目標は、ベルギーにプロフェッショナルなクラブを作ることなんだ」
ビルモッツが議員になるときの公約は、“スポーツの普及と振興”だった。彼の中では、STVVの監督をすることと、議員の活動は決して矛盾するものではない。ビルモッツは議員を続けながら、選手の獲得に動いた。古巣のシャルケ(ドイツ)から23歳のMFハイナルを引っ張り、かつての同僚であるFWグーセンスをグラーツ(オーストリア)から呼び寄せた。使えるお金はほとんどないが、選手時代のパイプを生かして、何とかチームの強化を図ろうとしたのである。
しかし、“ミスター1000%”を待っていたのは、厳しい現実だった。ベルギーリーグが開幕して4試合を戦い、STVVは3敗1分。まだ1勝もできず、18チーム中17位に低迷しているのだ。
マスコミはビルモッツを「監督の経験がほとんどない」と批判し、ファンもすでに解任を要求し始めた。サントロイデンは一流クラブを目指すどころか、2部落ちを心配する状況に陥ってしまっている。
だが、それでもビルモッツは、監督を続けることを全く諦めていない。
「ベッドに銃を持って寝たとしても、私は自殺をしようとは考えないだろう。結論を出すのは、まだ早い。本当のプロになるためには、耐える時期が必要なんだ」
ベルギーリーグは、オランダやドイツに人材を吸い取られ、猛スピードで衰え始めている。すでに近隣国では、「オランダやドイツの2部リーグ」と馬鹿にされているほどだ。誰かが何かを起こさないといけない。だからビルモッツは、議員という地位を危険にさらしてまで、田舎町の小クラブの監督になったのだ。
サントロイデン監督就任は、“議員”ビルモッツのもうひとつの政策と言っていい。この挑戦がどんな結果に終わろうが、今季のベルギーリーグに見所がひとつ増えたことは間違いない。