Column from EuropeBACK NUMBER
今シーズンはいったいどうなる?
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2004/08/18 00:00
いったいどんなシーズンになるのか? 昨年の今頃は、もっと分かりやすく想像しやすい勢力図が描けた。優勝候補は、地味ながらもきっちりと組織を築いたベニーテスのバレンシア、豪華なレアル、職人イルレタのデポルティボ・ラ・コルーニャといったところで、各チームの補強の意図もはっきりしていた。しかし、今シーズンは、もう少し複雑である。その理由はとしてはまず、契約を延長した指揮官がバルセロナのライカールトやイルレタをはじめ数人だけだということがあるだろう。監督が代われば、チームの色も変わる。
とはいっても、ライカールトもチーム改革には積極的で、バルセロナはマジョルカからエトーを獲得したことで新加入選手が7人を数えた。バルサは昔からレアルと似たような問題を抱えてきた。どちらも守備の駒が不十分だった。良くも悪くも、攻めてなんぼのリーグである。攻撃重視の選手獲得も今に始まったことでもないだろう。なのに、ここ数年バルサのゴール数は激減していた。それがようやく、フィーゴが抜けてから日替わりだった右ウイングにジュリーが納まり、ニューカッスルへ旅立ったクライフェルトと、モナコかアトレティコに放出されるであろうサビオラのポジションには、エトーとラーションが組み込まれた。それに加えてロナウジーニョにデコと色とりどりのバルサなのに、なぜか物足りなさを感じさせるのは、昨シーズンのレアル同様、守備的MFの存在が欠けているからだろう。コクーはPSVに去り、メキシコ代表のマルケスやブラジル代表のエジミウソンを中盤に起用する案をライカールトは試みているが、カタラン人のジェラールにバレンシア時代に見せた活躍を期待する声もある。ともかく、今のところバルサには心臓がない。
ベッカムをして「かなり強い性格だ」といわしめたカマーチョ監督のレアル・マドリーは、サムエル、オーウェンを獲得してもなおオファー攻勢を続けている。欧州選手権、アジア遠征、そしてすでにチャンピオンズ・リーグにワールド・カップ予選が絡んできていだけに、蓄積する選手の疲労を考えれば、不安を抱えたスタートになりかねない。ジダンがフランス代表を引退したのはありがたいことだが、フィーゴの契約は冬までという噂もある。また、強気なカマーチョが繰り広げる連打にクラブの内部事情はややこしくなっている。バルダーノの後釜としてGMに就任したブトラゲーニョがいいクッションになってくれればいいのだけれども。
アーセナルのビエイラにレアルがラブ・コールを送って数年が経過した。今季も、ベンゲルがまったく了解してくれず、やっと交渉の場まで漕ぎ着けても移籍金はつり上がるばかりだった。レアルが求めていたのは、マケレレの後継者、奪われたボールを中盤で回復してくれる選手だった。サムエルがセンターバックに加入したことでエルゲラを再びグランドの中央に戻せるが、それでも不安は取り除けないようだ。サムエルの相棒はパボンやラウール・ブラボではないらしい。カンナバーロやコロッチーニが狙いだ。
「ベニーテスの戦術を変えることはない」というバレンシアのラニエリではあるが、カルボーニを含めて5人ものイタリア人選手が加わったことを思うと、なんともいえない気分になる。昨シーズンのリーグ覇者とはいえ、まるでギリシャがユーロ2004でチャンピオンに輝いたようなもの、といったらいいすぎかもしれないけど……。ラニエリがアイマールを重宝するか否か。アイマールやベンチはもうウンザリだろう。
プレシーズンマッチでFC東京がラ・コルーニャに勝利したことは、驚きだった。ガリシアの地元で、しかもほぼ1軍だったラ・コルーニャが無得点に終わったことを、どう捉えればいいのか、困ってしまう。イルレタのもとを何度か訪れては質問をぶつけ、ノートに戦術のイロハを書き込んでいた原監督が、師匠をあっさり打ち砕いてしまったのだから。34歳のナイベトがトットナムへ移籍し、フランもチームを離れるかもしれない。リーグで平均年齢がもっとも高いラ・コルーニャがいまだ補強していないのは、理解できない。チャンピオンズ・リーグで稼いだ資金はどこへ消えてしまったのだろう。
各クラブが、2部に落ちたセルタのから選手を獲得している。なかでも、フランス代表のルクシンを獲得したアトレティコが一番安定しているといえそうだ。GKもマジョルカからレオ・フランコを補強している。イバガサのコンディションもいい。フェルナンド・トーレスもいる。これにサルバ、サビオラが加わるとしたら、4強を脅かす存在である。
クラス替えに留学生、新入生、ではないけれど、今シーズンは2部から昇格してきた未知のクラブもあるからして、展開を予想するのは困難。それだけに開幕戦が楽しみだ。新加入チーム、新監督の暴れっぷりに期待しつつも、でも、やっぱり最後はバルサとレアルのデットヒートになるのが理想だと思い描いている。