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ルーカス・ポドルスキ 「ゲルマンの異端児」
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
posted2006/09/14 22:24
W杯の真っ只中、ドイツ代表が泊まっている合宿所の前──。夜11時のニュース番組のために、女子アナのモニカ・リールハウスが門の前に立って、生リポートを開始した。だが、この人気アナの様子がどうもおかしい。彼女は困惑した様子で切り出した。
「ポドルスキが私の名前を、門の後ろから呼び続けてるんですよ」
彼女がリポートに集中できなかったことは言うまでもない……。
TVを見ていたポドルスキと親しい記者は、すぐに彼のもとに電話を入れた。いったいなぜ、そんなことをしたのか?― ポドルスキは何事もなかったかのように答えた。
「確かに門には行ったけど、知り合いのカメラマンの名前を呼んだだけだよ。『ポニー』ってね。彼女は『モニー』って聞こえたのかな?― 全く困ったもんだ」
ポドルスキはとぼけているだけなのか、本当に知人に声をかけたのか……。どちらにせよポドルスキが国営放送の生中継を邪魔したことは確かである。
でも、たとえワザとだとしても、ポドルスキを責めるものはいないだろう。
W杯が始まる直前、国営のラジオ局が「ポドルスキ日記」という彼を笑いものにするパロディーのコーナーを始めていたのだ。
〈今日はオレの強烈なシュートで、GKヒルデブラントの手が血だらけになっちゃった〉
〈W杯シールを買ったら、またクローゼが出た。破ってやる!〉
もちろん全部作り話だが、これを聴いたポドルスキは激怒して、「もう国営放送のTVとラジオの取材は一切受けない」と発表したのだった。自国開催のW杯を戦っているのに、選手を馬鹿にしたコーナーをやるなんて許せるわけがない。それでもこのコーナーが中止されるまで、2週間もかかった。ポドルスキの小さな仕返し(?)は、一部のファンからは拍手喝采を浴びた。
ポドルスキは19歳で代表にデビューすると、すぐにドイツ代表のエースに定着した。その一方で派手な見た目とビッグマウスぶりから「生意気だ」と感じる人も多く、マスコミからも特殊な存在として扱われている。
でも、ポドルスキの人柄はちょっと誤解されているのだ。