Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
別府史之 「僕らしい走りを見せたい」 / ツール・ド・フランス2009プレビュー
text by
森高多美子Tamiko Moritaka
photograph byYuzuru Sunada
posted2009/07/08 11:30
ツールに出場できるのか。別府史之に話を聞いたのは、その決定前の「最終候補」の時だ。プロ入り5年目でつかんだ初のポジション。高揚していて不思議はない彼の言葉は、こうだった。
「春からトラブルが多くて悩んでいたんだけど、ツールの知らせが入って少し変わりましたね。もうちょっとシリアスに臨もうって」
意外なほどクールな反応。しかし、浮かれていないのにはちゃんと理由があった。
ひとつはディスカバリーチャンネルでの経験だ。'05年の入団当時、チームはランス・アームストロングのツール7連覇を懸けて全エネルギーをそこに注いでいた。それを見て、
「これほど力のある人たちがこんなに真剣になる、それがツール・ド・フランスなんだって、重大さを肌で感じましたね。僕は一緒にレースに出たわけじゃないけど、緊張感はリザーブもスタッフもみんな共有してた。それと同時に、走り続けていればいつかは出場するものっていうふうに視野に入ってもきたから、逆にテレビとかでも見なくなりました。そんな時間あったら練習した方がいいって」
ツール出場という目標が狂った歯車を元に戻した。
冷静さのもうひとつの理由は、彼の軸足が“クラシック”と呼ばれるワンデーレースに置かれていることだ。1日で勝敗を決するレースといえども、クラシックの価値は欧州においてなんらツールに劣るものではない。
その中で、彼がもっとも重点を置いているレースはパリ~ルーベだ。長い石畳のコースを走る特異なレースで、ツールなどで軽量化が求められるのとは反対に、選手には自転車の制御のために“重量化”が求められもする。
「今年のはじめは4月のパリ~ルーベがいちばんの目標だったので、そのために体重も3キロぐらい増やしてたんです。でも、結果は落車に巻き込まれてリタイアだし、そのあとも体重のせいで心臓に負荷がかかって思うように走れなくなって、悩んでましたね」
そこに届いた最終候補の一報は狂った歯車を元に戻す役割を果たした。
「ツールはオリンピックとかと同じで、選手なら誰でもあこがれる大会。その最高の舞台を与えられたわけだから、最高のアピールをしたいと思ってます。そのためには、ツールに照準を合わせてやれることをやるだけ。山岳のために合宿もして、体重も元に戻して」
それが“シリアス”な取り組みということ。
「体も絞れて、いまはすべてがしっくりはまってますね。体も軽いし、心も軽い!」
ツールはやはり大きい存在ということか。