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【第76回ダービー・プレビュー】 武幸四郎 「今年はチャンスだと思っている」
 

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島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

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photograph byNorihiko Okimura

posted2009/05/29 11:00

【第76回ダービー・プレビュー】 武幸四郎 「今年はチャンスだと思っている」<Number Web> photograph by Norihiko Okimura
「ターフの魔術師」を父に持ち、兄は言わずと知れた天才ジョッキー。
デビュー13年目を迎えた“サラブレッド”が、皐月賞2着馬で挑む好機を前に、その胸中を語る。

 今年デビュー13年目を迎えた武幸四郎騎手は、皐月賞2着のお手馬・トライアンフマーチとのコンビで日本ダービーに臨む。

 彼にとって、これが7度目のダービー参戦となる。父の邦彦は6度目、兄の豊は10度目の参戦で栄冠を手にした。ダービージョッキーになったとき、父はデビュー16年目の33歳、兄は12年目の29歳。

 幸四郎は最も脂の乗った30歳。有力な騎乗馬を得た今、そろそろ自分も、という思いは強いはずだ。

「そうですね。充分チャンスがある馬だと思います。ぼくも、若いころより、ダービーでの負けを知っていますし。負けを知らないより、一杯負けて、難しさをわかっているほうが絶対にいい」

デビュー戦では負けたが、本気で走っていなかったトライアンフマーチ。

 そう話す幸四郎にとって、トライアンフマーチは特別な存在である。

 彼が初めてトライアンフマーチの背に跨ったのは、今年1月、新馬戦前の追い切りでのことだった。牝馬のダービー馬ウオッカの管理者として知られる角居勝彦調教師から直々に騎乗依頼をもらった。

「調教で乗る前、角居先生から『途中でほかの騎手に乗り替わりはしない。その代わり、癖のある馬だから、自分でつくっていってほしい』と言われたんです。あれほどのトレーナーに指名され、そう言われたことは、騎手として嬉しく思いました」

 が、跨ってすぐ、桜花賞馬を母に、ダービー馬を父に持つこの良血馬の依頼が、兄ではなく自分に来た意味がわかったという。

「どちらかにモタれるのではなく、左右両方に飛んで行くんです。モタれる馬は、ハンドルが利かないことが多いのですが、この馬はそうではなかった。気性に問題があって、遊びながら走っていたんだと思います」

 能力をはかることなどできる状態ではなかった。まず、レースで普通に走らせることを考えなければならない。デビュー戦は1月25日、京都芝1600mの新馬戦。

「返し馬のとき、落とされないよう鐙を長くして乗りました。レースは、直線で左右に3回ぐらいジグザグに行ったのを直しているうちにゴールしてしまった。でも、何もできなかったのに2着になるんだから、能力はあるな、と思いました」

【次ページ】 まるで沈みこむような……驚くべき末脚を発揮。

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