野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
一戦必勝体制の横浜ベイの救世主?
心を入れ替えて復活した吉村裕基。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/05/11 12:40
5月8日の阪神戦でサヨナラホームランを放ち、でんぐり返しでホームインした吉村。チームの雰囲気も明るくなった今季。吉村の無邪気で輝くような笑顔も復活している
見た目は同じようでも、やっぱりいろいろ違う。
そんなことをベイスターズの4連勝を見て改めて思った。
24試合10勝13敗1分。借金生活は相変わらずなのだが、昨年までは一度沈めば海の底の底、一度も浮上せず水深、もとい負け数100近くまで落ち込んでいたところが今季は一度沈んでからの最下位脱出。昨年まで深海に棲息する変色ヒトデだったホッシーが、いまはお空に輝くお星さま、というのと同じ。見た目は同じようでもエライ違う。
パカスカ打たれまくる。エラーや落球もする。だが、今年のチームは初っ端から出し惜しみなしのフルスロットル。5月10日の巨人戦、6回で7-1という大量リードの試合でも加賀(16試合登板)、真田(11試合)、江尻(17試合)を惜しみなくつぎ込むという弾切れ玉砕覚悟の一戦必勝体制。
これを余裕のない継投と評する人も多いだろうが、3年連続90敗以上のチームに「後半戦どうなっちゃうんだろう?」と心配する資格はない。筆者は5月の段階でただ一球団だけ「今日を勝たなきゃ明日はない」というCSのような戦いをしなければならないベイスターズに涙を禁じえない。
江尻、加賀、真田に全力疾走継続中の村田、明るく振る舞おうとしている尾花監督も含め、いつ果てるかもわからぬ戦いに身を投じる彼ら。その姿からは、執念じみた勝利への渇望が伝わって来るではないか。
そんな中でも今季、特に劇的な変化が感じられる選手がいる。10日はソロ、そして8日のサヨナラと2戦連続本塁打を放った吉村裕基だ。
内川、古木、村田、多村……期待の若手で溢れていた横浜。
2000年代序盤から中盤。当時チームは弱くとも内川、古木、村田、多村、吉村……なんて圧倒的な才能を感じさせる若手がベイスターズには存在した。
なかでも吉村は高卒4年目の'06年に26本塁打でレギュラーを獲得した早熟の逸材。足を高く上げた豪快なスイングと、「歌舞伎投げ」と呼ばれる美しすぎるフォロースルーで多くのファンの心を鷲掴みにし、応援歌「ハマに勝利を呼び込む豪快なスイング、ユーキ!ユーキ!狙えスタンド遥か」の歌詞通り、翌'07年は24本、'08年には34本塁打を放ち村田らに続く横浜の看板打者に上り詰めた。
だが結果を残したとはいえ、まだアラも多く好不調の波も激しい。その当時インタビューしたある野球解説者の吉村評もひどいものだった。
「あまりにも考えなしにバットを振り回しすぎだよね。チームがタイムリーを欲しい場面で明らかなワンバウンドに手を出して三振してる。彼はチームじゃなくて自分のために野球をやってる。考えて野球をやらないと先はないよ」
解説者の予想通り、翌年から吉村は極度の不振に陥った。'09年打率.248、16本塁打。さらに昨年は49試合で打率.205、本塁打3本。5月には二軍落ちと吉村にとってプロ人生最悪の2年間となった。