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スーパーボウル 逆転劇の舞台裏。
text by
渡辺史敏Fumitoshi Watanabe
photograph byYukihito Taguchi
posted2009/02/26 00:00
そんなフィッツジェラルドが活躍できない理由は、スティーラーズの守備にあった。常に2人の守備選手を、それも多彩な形式で彼のカバーにつけたのである。そのためQBカート・ワーナーのパスは、フラットと呼ばれる浅いゾーンへのものばかりになった。
ただ、フィッツジェラルド自身は冷静さを保っていた。「若いときだったらたぶん苛立っていただろうね。でもこの重要なゲームでいつか自分が呼ばれて、自分のところにボールが来るのはわかっていた」と語っている。
冷静だったのは、ヘッドコーチのケン・ワイゼンハントも同じだった。スティーラーズの守備プランを分析し、後半の攻撃プランに修正を施したのだ。ハーフタイムショーでブルース・スプリングスティーンが通常の倍近い約30分をかけたこともカーディナルスに味方した。「この間に念入りな修正ができた」とワイゼンハントは振り返っている。
カーディナルスが行った修正とは、次の点だ。4人のWRを一度に投入してフィッツジェラルドにカバーを集中させないようにし、さらにノーハドル・オフェンス(作戦伝達のためのハドルを組まずに攻撃すること)を展開。また、通常大外にポジションをとるフィッツジェラルド対策として、外へ押しやるようにディフェンスしていたスティーラーズ守備を逆手に取り、ミドルと呼ばれる中心部へのパスを多用したのである。
第4Qになるとその効果が現れ始めた。フィッツジェラルドへの3本を含む7本のパスで一挙に敵陣1ヤードまで攻め込むと、残り7分41秒、フィッツジェラルドへの絶妙なTDパスで14対20と1TD以内の差に迫る。
ただ、次の攻撃はパントに追い込まれてしまう。気の早い人ならここで万事休すと感じただろう。事実、席を立つファンも目についた。だが、本当の波乱はここから始まったのである。
絶好のパントでスティーラーズに自陣1ヤードからの攻撃を強いると、エンドゾーン内での反則を誘い、自殺点であるセーフティを奪う。16対20。勢いは完全にカーディナルスに傾いた。残り時間は2分58秒になっていた。
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