濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
意外な形で実現した、
女子格闘技界の頂上決戦!
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2011/05/10 10:30
神村エリカ(写真右)の左フックがRENAの顔面を捉える。左フックを決め手として神村はRENAから2度のダウンを奪うというエキシビジョンを超えた戦いを繰り広げた
お互いが本気で戦う、エキシビションマッチ。
開始直後、まずはRENAが右ストレートをねじ込む。その鋭さは、どう見てもエキシビションの域を超えていた。ただごとではない雰囲気を察知した観客がざわつく中、神村が組みついてRENAを転倒させる。得意とするムエタイ式のテクニックだが、“投げあり”の競技で闘ってきたRENAには屈辱だったはずだ。
RENAも首投げで対抗し、再び右ストレートをヒットさせる。神村は左ミドルから左フック。この一撃でRENAが倒れる。完全にダメージを与えられてのダウン、俗な言い方をすれば“ガチのダウン”だ。
実戦形式とは聞いていたが、まさかここまでとは――。虚を突かれたのだろう、レフェリーは一瞬の間を置いて、ためらいがちにダウンカウントを数え始めた。立ち上がったRENAが負けん気をむき出しにして殴る。神村もパンチを返す。そして、ここでも神村の左フックでRENAの腰が落ちた。
エキシビションだから、公式な形での勝敗はない。レフェリーは両者の手を揚げた。だが、ファンはどちらが強いのかをはっきりと理解していた。闘った本人ならなおさらだろう。
勝敗無き敗北がRENAにもたらしたもの。
数日前には考えもしていなかった“敗北”を味わったRENAは、女王としてではない感情をインタビュースペースで吐露した。
「目が覚めました。本当なら泣いちゃうところですけど、ワクワクしてますね。これでもっと強くなれる。ずっとトップを走ってきて、負けることもなくて、ちょっと天狗になってた部分がありました。借りたものはしっかり返します。神村選手との試合? いつでもやります。“やらせてください”という感じです」
神村も、正式な対戦に異存はない。「今度はRISE(神村のホームリング)で、3分5ラウンドで」と語っている。
神村は“最強”の称号を揺るがぬものとし、RENAは“追う者”としてのモチベーションを得た。対戦相手の来日キャンセル、大会前日のオファー、そしてRENAのダウン。不測の事態がいくつも重なって、二人の女王の物語は一つになった。それは、これから何年にもわたってジャンルを牽引することになる物語だ。そのスタートはあまりに突然だったが、事前の“お膳立て”がまったくなかったことに、むしろドラマチックなものを感じるのは筆者だけではないはずだ。