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小誌にインスパイアされた
『もしドラ』筆者の秘蔵作品。
~『エースの系譜』誕生の経緯~
text by

岩崎夏海Natsumi Iwasaki
photograph bySports Graphic Number
posted2011/05/07 08:00

『エースの系譜』 岩崎夏海著 講談社 1400円+税
「Number」の落とし子のような小説の紹介を「Number」に。
なぜなら、そこにはぼくが味わいたいと願ってやまない、スポーツを長年にわたって間近で見てきた人々の感慨が描かれていたからだ。特に、いくつかの記事においては、他ならぬ書き手がその存在となっていた。そこには、単なる取材者としてではない、当事者としての興奮と喜びとが、行間から隠しようもなく溢れ出していたのである。
例えば、「ナンバー・スポーツノンフィクション新人賞」の第四回受賞作となった平塚晶人の『走らざる者たち』は、このような書き出しで始まっている。
「凍てつく星空の下を東へ疾走するバスの中で(後略)」
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このケレン味はどうだろう! 気温は「寒い」ではなく「凍てつく」、空は「夜空」ではなく「星空」、バスは「走る」ではなく「疾走する」。こうしたレトリックが、何とも言えずワクワクさせられるのだ。これこそが、興奮と喜びを味わった者の文章なのである。
これを、真似よう。こうした書き方こそが、この小説には相応しい。
そうして書かれた『エースの系譜』は、だからいうなれば「Number」の落とし子のようなものである。その落とし子の紹介記事を、他ならぬ「Number」にこうして書かせて頂くことは、だからぼくにとっては何より感慨深いのだ。
