<前後編の2本立て/後編はこちら。エディオンの後輩、矢田みくに選手のインタビューは現在公開中、沢栁厚志監督は近日公開予定です>
「陸上人生は楽しかったです」
ラストレースから3カ月。そろそろ走りたくなってうずうずしているのでは? とたずねると、「まったく」といって彼女は笑った。「今はまだ休みたい気持ちが強いのかも。これまで長く走り続けていたので」

42.195kmという果てしない距離を走り抜くためには、強い意志と次の目標へと向かう思いが必要不可欠だ。もっと速く、もっと前へ。そんな世界で女子長距離界を牽引してきた細田あいは、今年3月の東京マラソンを最後にユニフォームを脱いだ。
ラストレースでは、これまでのレースとは違う景色が広がっていた。最後の一歩をどこで刻むかを考えたとき、心に浮かんだのはこれまで支えてくれた日本のファンや関係者への感謝だった。自分の走る姿を直接見てほしいーー。その一心で東京でのレースを「集大成」に選んだ。
そのスタートラインに立つまでの道のりは決して平坦ではなかったが、いざ号砲が鳴ると身体は驚くほど軽やかに動いた。自己ベストを記録した2024年のベルリンマラソンは37kmまで余裕があったというが、この日は35kmを過ぎたあたりで疲労の波がやってくる。それでも日本人トップを守り切り10位。笑顔でゴールテープを切った。
「この気持ちで競技を続けていくのは苦しいなと」
細田の表情が晴れやかだったのは、順位や記録という結果への執着から解き放たれ、沿道の声援を全身で受け止める楽しさに身を委ねていたからかもしれない。
「〝楽しむ〟ってなんだろうって思っていたけれど、自分に声をかけてくれる人に気づけたとき、すごくうれしいし、楽しいと思えたんです」
多くのアスリートにとって引退の引き金となるのが、怪我や年齢的な限界だ。
しかし、細田の決断はそのいずれにも該当しない。
もともとパリ五輪への挑戦を「一つの区切りにしたい」と考えていた。ただ、怪我の影響などでMGCで本来の走りができなかったことから、やりきって競技生活を終えたいと、競技続行を決断。2025年の東京世界陸上代表入りを目指した。
世界陸上の選考も兼ねた2025年3月の東京マラソンでは、2時間27分43秒のタイムで日本勢2番手となる全体13位でフィニッシュ。代表入りを逃し、涙を流した。
「(世界陸上代表を)目標にしていたはずなのに、レースを終えたときに悔しいという感情がわいてこなかったんです。その後、自分と向き合う時間をつくったのですが、なんのために走っているかを考えたとき、目標を達成したいとか、〝こうなりたい〟という思いに欠けているなと思って。この気持ちで競技を続けていくのは苦しいなと」
もちろん、まだ走ることはできる。でも、自分の心に誠実でありたかった。勇気を持って〝立ち止まる〟ことを選んだ。

エディオン女子陸上競技部を指揮する監督の沢栁からは「もったいない」と言われたが、細田の決意が揺らぐことはなかった。周囲の期待に応えるための自分ではなく、自分の本心に嘘をつかない道を選んだ。
細田あいが見た後輩・矢田みくにの初マラソン
このインタビュー動画・前編では以下のトピックについても話をしてもらっている。
- 「引退」という結論に至るまでの経緯
- 自分の本心がどこにあるのかを確認したかった
- クイーンズ駅伝優勝を実感した意外な瞬間
- 先輩・細田が見た矢田みくにの初マラソン
- 「自分は副キャプテンが似合ってる」の真意は?
- 自分の記録を更新されたときの気持ち
- エディオンの後輩たちへ残せたもの
現役ラストシーズンは「やりきったという気持ちが強いので、後悔がないんです」と競技人生をまっとうした細田の思いに迫った動画インタビュー、後編とともにぜひご覧ください。
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