我慢、我慢……すべてはパリ五輪のため。
自分にそう言い聞かせながら、高橋藍はコートを見つめていた。
パリ五輪の前哨戦でもあった今年のネーションズリーグ(VNL)で、バレーボール男子日本代表は、主要な国際大会では52年ぶりとなる決勝進出を果たした。その快挙の瞬間、高橋はスポットライトの当たらないスタンドにいた。
高橋は19歳だった2021年に日本代表にデビューすると、瞬く間にエース・石川祐希の対角の座を射止め、その年の東京五輪では全試合に先発出場。以来ずっとスポットライトの当たる場所を、猛スピードで成長しながら駆け抜けてきた。

靭帯のけがにも「この間にできる強化をしよう」。
その高橋が今年は2度、立ち止まることを余儀なくされた。
発端は1月24日に行われたイタリア・セリエAのモンツァ対ヴェローナ戦。その試合はまさに“ラン・タカハシ劇場”だった。あの瞬間までは――。
試合開始と同時に、モンツァの攻守の軸である高橋が強烈なサービスエースを決める。次は、バックアタックを打つと見せかけてトスを上げる“フェイクセット”を披露し2-0。鮮やかなスタートダッシュで主導権を握った。第2セットもショートサーブで2本のエースを奪うなどコートを支配し、2セットを連取した。
だが、第3セット17-16の場面で、レフトからスパイクを打った高橋が着地の瞬間、崩れ落ちた。相手ブロッカーの足の上に乗り、左足首をひねってしまったのだ。審判台に仰向けにもたれかかり、左足を宙に浮かせたまま、苦痛に顔を歪めた。
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