次々に新たなスーパースターが生まれるメジャーリーグでは、早くも2000年以降に生まれた遊撃手が頭角を現し始めている。彼らにはスピードもパワーもあり、守備には華やかさがある。この若者たちが将来、大谷翔平の地位を脅かすかもしれない。(原題:[クローズアップ]スリリングな若き才能 デラクルーズ/ヘンダーソン/エイブラムス/ウィットJr.)
2球。そう、たった2球でベースを回ってしまったのだ。フォード・マスタングのエンジンを思わせる強力な両足の馬力、風になびくブロンドのハイライト入りの長髪。2023年7月8日、レッズの21歳の名が瞬く間にメジャーリーグで知れ渡った。
エリー・デラクルーズの話である。
捕手が座りながら二塁に送球しても、デラクルーズは間に合う。これでまず二盗に成功する。そして、次の投球ですぐさま三盗。その直後だった。ボールを持つ投手が自分にまったく注意を向けていない……そう察したスピード狂は、ついにはホームへ突進する。鮮やかな本盗の完遂。わずか2球で3つの盗塁を決めるという、紛れもないショーだった。
「野球界で最もスリリングな男だ」
実況のジョン・サダックが叫ぶ。
「二塁、三塁、そしてホームまで盗んだ!」
試合時間もシーズンも長い野球は、しばしばマラソンに例えられる。だが、デラクルーズのようなプレーが見られる今、その比喩は本当に的確だろうか。スプリンターのようなスピード、IQ、運動能力、パッション。いまや、それらが融合した新しいゲームが繰り広げられていて、ショーの中心に若き才能たちがいる。加えてなぜか、彼らは揃って遊撃手だ。これまで見られなかった現象が起きている。
実況するサダックが、ややオーバーに発言したくなる気持ちはわかる。だが、彼の言葉にはひとつ、欠陥がある。「野球界で最もスリリングな男」はショウヘイ・オオタニを評するための表現だ。大谷が“単なる”一刀流としてプレーする今年も、その事実は変わらない。
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photograph by Yukihito Taguchi