日本中を驚かせたボクシング転向から1年が経った。その実力を疑問視するアンチの声を撥ね除け、デビュー3連勝を飾った「キックの神童」は今、どんな未来を見据えて、サンドバッグを叩くのか。(原題:[キックを極めた男の哲学]那須川天心「ちゃんとした異物でありたい」)
視野は広く、視座は高く。
ゴールデンウイーク最終日の5月6日、東京・原宿で開催した自身の個展「関係ないっしょ気持ちっしょ展」を終えてから、那須川天心は東京ドームにやってきた。
近い将来、ライバルとなるであろうバンタム級の世界タイトルマッチや井上尚弥の戦いを目に焼き付けるばかりでなく、関心のアンテナをあちこちに向けていた。
「プレーヤー目線はもちろんなんですけど、お客さん目線や主催者目線でもありましたよ。ここもっと演出があってもいいんじゃないかなとか、客席のこととかいろんなところに目をやっていましたね」
4万3000人を沸騰させたモンスターへの見方もちょっと独特だと言っていい。
「みなさんあのパンチ力に注目するんでしょうけど、自分の間合いというものをちゃんと理解して戦っているんだなって。すごくうまいなって。そこが印象的でしたよ」
東京ドームは2年前に「THE MATCH 2022」の舞台で武尊と戦った思い出の場所でもある。とはいえ、いずれここでやるというイメージまでは膨らませていない。
「興行はお客さんにどれだけ満足してもらえるかって、そこが重要だと思うんです。自分が東京ドームとかそういうことよりも、来てもらった人に“また見たい”って思ってもらえることが一番ですかね」
キック界のスーパースターであっても、まだボクシング界では何者でもない身。客観的に物事を、そして自分を眺めることができるから目線もブレない。
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photograph by Kiichi Matsumoto