『湯浅の1球』に沸いた、日本シリーズ第4戦。選手、ベンチ、裏方は各々の持ち場で力を尽くした。継投の力で掴んだ大きな1勝は、あのJFK時代から紡がれてきたブルペン陣の絆の結実でもあった――。
「何を話したのか、本当に憶えていなくて……。ブルペンでも、みんな驚いている状況でしたからね。でも、アイツをね、ビックリしたままマウンドに行かせるのは良くないと思って、声を掛けたんです」
岩崎優が4カ月前の夜を思い起こす。
1勝2敗で迎えた日本シリーズ第4戦。
阪神は同点の8回表、オリックスに攻められ、ピンチを迎えた。甲子園の一塁側ブルペンのモニターには、ワンポイントリリーフで飛び出した島本浩也が映っている。
電話が鳴ったのは、そんな時である。岡田彰布監督が次打者の中川圭太にぶつける継投で指名したのは6月以降、一軍のマウンドから遠ざかっている湯浅京己だった。
ブルペンでは加治屋蓮と湯浅が肩を作っていた。周りはざわついた。誰もが、公式戦から安定していた加治屋が投げるものだと考えていたからだ。岩崎もその一人だったが、すぐに湯浅の様子が気になった。
「この展開で投げさせてもらえるのかという感情もありました」と、のちに湯浅自身も明かしたように、確かに平常心ではなかった。その気配を察したのだろう。岩崎は湯浅に話しかけ、一呼吸置いたのである。
たった1球で中川圭を二飛に抑えた湯浅の投球が流れを変え、クローザーの岩崎が9回を抑えた。4投手のリレーで終盤の反撃をしのぎ、サヨナラ勝ちに繋げた。
『湯浅の1球』が生まれた夜、ブルペンに生きる男たちはそれぞれの持ち場で力を尽くした。昨秋の日本シリーズ第4戦はブルペン陣の強さが詰まった試合だった。
全ての写真を見る -3枚-
特製トートバッグ付き!
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
photograph by Nanae Suzuki