泣いて、笑って、喜んで。
偉大な記録の裏には、感動巨編の映画を見るかのように紆余曲折のストーリーが詰まっているものだと思いがちである。
遠藤保仁は一線を画す。事象と感情に大きな浮き沈みをつくらない。常に一定を保とうとしてきた。過去に捕らわれず、地に足をつけて先を目指そうとする。それは味わい深い骨太な長編の記録映画のように。
その数、1000―。
8月2日、J1第21節、アウェーのヴィッセル神戸戦で日本人初となる公式戦通算1000試合出場を達成した。
鹿児島実業高から1998年に横浜フリューゲルスに入団して以降、22年かけてたどり着いた。J1(621試合)、リーグカップ(72)、天皇杯(48)、ACL(58)、J2(33)、そしてA代表(152)、その他(16)。年平均45試合、毎年コンスタントに出場を続けることがどれほど難しいか。ケガなく、不調なく。そうでなければ到底、無理な数字だと言っていい。世界でもパオロ・マルディーニ、ライアン・ギグス、シャビら一握りのレジェンドしか達成していないのだから。
鉄人とて人間だ。映し出されない感情はある。隠されてきた喜怒哀楽はある。その小さな感情の“揺れ”を知れば、「本当のヤット」を理解することができる。
「このメンバーでもうやれないのかっていう寂しさ」
ピッチで彼が涙を流す姿を目にしたのは一度しかない。1000分の1だ。
それは2010年6月29日、南アフリカワールドカップ決勝トーナメント1回戦のパラグアイ戦だった。120分戦ってもスコアは動かず、結局はPK戦の末に敗れた。準々決勝に進めば、スペインとの対戦になったが、叶わなかった。
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています