10月14日、史上初めて地上波全国ネットで生放送された第100回箱根駅伝の予選会。報徳学園高校出身の注目ルーキーとして紹介される東京農業大学の前田和摩を画面越しに見ながら、1000km以上離れた宮崎県延岡市で長嶋幸宝は胸を弾ませた。テレビの前に並んで座った箱根駅伝出場経験のある旭化成陸上部の先輩たちが「1年生にこのコースは厳しいんじゃない」と口にすると、今季、西脇工業高校から加入した高卒新人はすぐに反応した。
「前田が絶対に日本人トップを取るから見ていてください」
全国高校駅伝のエースが集う1区で区間賞を取っている長嶋は、自信たっぷりに言い切った。そして、15km過ぎで「ここから出てきますよ」と予告した。そのとき、画面の向こう側にいる前田は一気にペースアップし、次々と留学生をかわしていく。20km過ぎで日本人選手の先頭を走る中央学院大学の吉田礼志を抜き去ると、そのままフィニッシュ。前田は自身初のハーフマラソンで日本選手最速の座に就き、東農大の10年ぶりとなる箱根駅伝出場に貢献した。高校時代に同じ兵庫で前田と何度もつばぜり合いした長嶋は、先輩たちの前で「僕のライバルなんです」と胸を張った。
「前田の走りを見て、周りのみんなは驚いていましたが、僕はもっと行けると思いました。15kmまでは休んでいたので」
その3週間後の全日本大学駅伝で前田は、箱根駅伝シード校のエース格が集まる2区で序盤から攻め、圧巻の6人抜きを披露。区間3位ながら区間記録を上回るタイムの快走で大学長距離界に再び衝撃を与える。長嶋は、頬を緩めてしみじみと話す。
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