2006年オフ、日本の至宝の大リーグ挑戦は多くの球団を巻き込んだ狂騒曲の様相を帯びる。そして、日本円にして約60億円で独占交渉権を獲得したのはレッドソックスだった。
5111万1111ドル11セント――ポスティング・システムによる松坂大輔との独占交渉権を得るために破格の入札金を注ぎ込んだ球団が、2006年11月15日、MLBと西武球団から発表された。日本の怪物を本気で獲りにきたのはその2年前、86年ぶりにワールドシリーズを制覇した古豪、ボストン・レッドソックスだった。
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ポスティング・システムも今とはルールが違って、当時は選ぶという要素がまったくありませんでした。だからライオンズからの連絡を待つしかなかったんです。事前に渡米するということもありませんでしたし、どこが入札するんだろうということも報道でしか窺い知ることができませんでした。希望ということで言えばヤンキース、ドジャース、ジャイアンツ、メッツ……いや、マリナーズ以外ならどこでもいいと思っていましたね(笑)。でもこれは冗談でなく、僕はアメリカへ行ってイチローさんと対戦したかったので、あのときのマリナーズへ行くわけにはいかなかったんです。
とくにどうしてもここへ行きたいという球団があったわけでもありません。レッドソックスにも、そういう気持ちは持っていませんでした。発表の直前に『レ軍有力』と報じられたときも、ああ、レンジャーズかと思いましたし、実際、有力と報じられたのもレンジャーズでした(笑)。レッドソックスの名前がまったく挙がってこなかったのは、「本気だったから表に出ないようにした」と後に聞かされて、なるほど、そういうやり方もあるのかと思いました。
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photograph by Kiichi Matsumoto