彼が命を吹き込む駒は、81マスを縦横無尽に駆ける。まるで示される数値の束縛から解き放たれたように。飽くなき理想を追い、観る者を魅了し続ける男は盤上に拡がる豊かな可能性を誰よりも信じている。
AIの進化は現代将棋に大きな影響を与え、戦術面でも革命的な変化をもたらした。いまや棋士が研究パートナーとしてAIを導入することは、技術の向上や勝つための戦略を立てるうえで常識となりつつある。
緻密な棋風から「1秒で1億と3手読む男」といわれ、近年は独創的かつ自由な指し回しでファンを魅了してきた佐藤康光九段。
今年6月に6年4カ月務めた日本将棋連盟の会長を退任し、再び純粋なプレーヤーとなった今、AI全盛の将棋界をどう捉えているのか。天衣無縫の棋士に、将棋の未来について聞いた。
年齢に関しては、実はあまり意識していないんです。
――会長としての公務に忙殺される中、佐藤九段は昨期まで同世代の中でただ一人A級の座を守り続けました。驚くべきことだと思います。
「自慢じゃないですけど役員になってから将棋の勉強はしなかったので(笑)。そういう中でどう戦っていくかは課題でしたし、自分なりの戦い方をしてきたつもりです。一回りも二回りも年下の棋士とのリーグ戦で毎年残留できたのは、たまたま相手の不調に助けられるなど、運が良かった部分もある。役員最後の年に陥落してしまいましたが、これから巻き返したい気持ちです」
――将棋は息の長い頭脳スポーツですが、50代という年齢をどう捉えていますか?
「年齢に関しては、実はあまり意識していないんです。日本人の平均寿命が延びてきたこともありますが、昔の大山(康晴十五世名人)先生の時代の50代とはだいぶ違うと思っているので、心技体含めてまだまだこれからなのかなと。自分の場合は、将棋の内容だけ見ても、課題というか伸びしろはかなりあると思っています」
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photograph by Takuya Sugiyama