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「懸ける熱量は異常でした」北の大地を揺らしたコスモバルクと“相馬眼の天才” <「この地方馬が」という罵倒も>

2023/05/22
コスモバルクは現在もビッグレッドファームで過ごす
地方所属馬が日本ダービーを勝つかもしれない――。“大宇宙”と名付けられた、不人気種牡馬の産駒とホッカイドウ競馬の勝ち気な叩き上げジョッキー、アイディアと意欲に溢れたホースマンたちの戦いは、2004年のクラシック戦線を熱くさせた。いったいなぜ彼らは困難な挑戦を続けたのか。

 相馬眼の天才と言われ、馬づくりに心血を注いできた岡田繁幸はこう公言していた。

「ダービーを勝つのが私の夢です」

 また、中央競馬と地方競馬の格差をなくすことが、岡田の願いだった。

「地方競馬の人に夢を持ってもらいたい」

 コスモバルクは、岡田の夢と願いを凝縮したような馬だった。

 今から20年前、北海道が主催するホッカイドウ競馬は、存続の危機に瀕していた。廃止になれば馬の行き先が減り、牧場もダメージを受ける。ビッグレッドファームを営む岡田が出したアイディアのひとつが、「認定厩舎制度(外厩制)の導入」。実現すれば、レースの10日前までに門別競馬場内の厩舎に入厩することが必須ではなくなり、レース当日に牧場から直行できる。

 岡田はその先に、ホッカイドウ競馬の関係者と中央競馬の芝レースに挑戦することを思い描いていた。ビッグレッドファームのマネージャーを務める蛯名聡は言う。

Takuya Sugiyama
Takuya Sugiyama

「この制度に魅力を感じ有力馬をデビューさせる人が増えれば、地方競馬は関係者が夢を持って働ける場所になり、結果的に待遇面も上がっていくはず。そのために、岡田は認定厩舎制度の導入に尽力しました」

 中央競馬のレースの1着賞金は、どんなレースも500万円は下らない。一方、当時のホッカイドウ競馬の下級クラスの1着賞金は20万円。たとえば騎手の取り分は賞金の5%だから、前者は25万円で、後者は1万円。調教師や厩務員の収入格差も大きい。中央競馬より低賃金で仕事量は多いホッカイドウ競馬の関係者が、夢を持って大レースに挑戦できるように。岡田は育成中の2歳馬で期待の大きかったコスモバルクを認定馬の第1号と決めて、所属厩舎を探した。

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photograph by Takuya Sugiyama

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