他馬に囲まれ、直線を向いても後方という絶望的な位置取り。それでも彼は力ずくで勝利に通じる進路へ進入していった。古馬中長距離GI完全制覇への最後の関門をこじ開けた、“世紀末覇王”の絶体絶命からの執念をライバルたちが回想する。
テイエムは来ないのか。
20世紀最後の有馬記念。レースが佳境に差し掛かった直線、緊急事態を察知した実況アナウンサーが叫んだ。単勝1.7倍の圧倒的支持を背負う大本命が馬群のど真ん中で身動きが取れない。世紀末覇王テイエムオペラオーがもがいていた。
2000年の中央競馬はオペラオーの独り舞台。天皇賞・春で同期の菊花賞馬ナリタトップロードに雪辱を果たすと、宝塚記念ではグランプリ4連覇が懸かるグラスワンダーに引導を渡した。天皇賞・秋は12連敗中だった1番人気のジンクスを打破。ジャパンCに来日した世界選手権王者ファンタスティックライト(UAE)も相手にしなかった。古馬中長距離GIを総なめにしただけでなく、京都記念、阪神大賞典、京都大賞典(いずれもGII)を合わせ年間7戦無敗。中央平地重賞8連勝の新記録が懸かった有馬記念も当然、8戦連続となる1番人気。オペラオーの王道グランドスラム達成を、誰もが確信していた。
逆転劇予告、徹底マーク宣言…波乱の幕開けとなったレース。
しかし、覇王の連勝街道は対抗馬の闘争本能に火をつけていた。同じ相手に何度も負け続けるわけにはいかない。戦前の舌戦が、ライバル陣営の忸怩たる思いを浮き彫りにする。
宝塚記念、天皇賞・秋、ジャパンCとGI3戦連続でオペラオーの2着だった2番人気メイショウドトウの安田康彦は「馬の能力に差はない。勝つ乗り方をする」と逆転劇を予告。3番人気ナリタトップロードと新たにコンビを組む大ベテラン的場均も「(オペラオーに騎乗する)和田竜二君の表情、しぐさ、アクションを見極めてプレッシャーをかける」と徹底マークを宣言した。
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photograph by Hideharu Suga