「やられた! この手があったか。これはウチで作りたかった!」
2000年、奥アンツーカの現社長、奥洋彦さんは人目をはばからず悔しがった。1964年東京五輪で国立競技場のトラックを担当したスタジアム作りの老舗が脱帽したのはフィールドターフ社(カナダ)の「フィールドターフ人工芝」。それは硬く、ヤケドするという従来のイメージを払拭する革新的人工芝だった。
「目を閉じてその上を歩くと、天然芝と感触が変わらない。そのとき確信しました。すべての人工芝が、近い将来これに代わると。そこで弊社は、すぐに販売権を取得したのです」
フィールドターフ人工芝は、カナダのふたりの“素人”の情熱から生まれた。
「ひとりは大のアメフト好きで“雨の日もプレーがしたいが、いまの人工芝ではいいプレーができない。なんとかならないものか”と元テニス選手であった友人にボヤいたところ、そのモノ作りが好きな技術屋の友人と理想的な人工芝の開発が始まったのだそうです」
'87年に完成したフィールドターフ人工芝は、'99年NFLスーパーボウルの会場敷地の一部に採用されたのを機に一気に世界に広がる。'02年には、日本でも本格デビューを果たした。東京ドームである。
クッション性が高いフィールドターフ人工芝は、疲れにくく、ケガの防止にもつながる。現場での評価は上々で、やがて横浜スタジアム、福岡PayPayドームでも採用された。
'02年の導入以降、東京ドームでは3度の張り替えが行なわれたが、基本的な構造は変わっていない。この間、多くのメーカーが100種類を超える人工芝を開発したが、フィールドターフ人工芝の牙城は揺るがなかった。それは基本特許である、上層からラバー、砂+ラバーチップ、砂を充填した積層構造が天然芝と変わらない感触を実現しているからだ。
「野球に加えてコンサートなど催し物が多い東京ドームは、世界でもっとも稼働率の高いスタジアムのひとつ。数万人の観客が入場したコンサート後のグラウンドで野球が行なえるのも、耐久性と柔軟性を備えた毛を持つフィールドターフ人工芝だからだと思います」
名門サッカークラブの練習場などでも使用されるフィールドターフ人工芝。奥アンツーカでは個人販売は原則行なっていないが、東京ドームが'19年に全面リニューアルし、「フィールドターフ HD-ST」を張り替えたときの総投資額は約3億円と報道された。