4年前と異なり、日本のエースとして挑んだ2度目の舞台。立ち塞がるロシア勢に風穴を開ける快挙は、練習に裏打ちされた“緊張”から生まれた。
驚きとともに、涙が止まらなかった。
2月17日、フィギュアスケート女子シングルで、伊藤みどり、荒川静香、浅田真央に続く日本4人目のメダリストが誕生した。3位となり、表彰台にのぼった坂本花織は、信じられないといった様子で「もう、びっくりです」と語った。
その45分前、フリーの演技を終えた坂本は、成績上位3名が待機する「グリーンルーム」の2位の席に腰掛けた。左隣には1位のアレクサンドラ・トゥルソワ。その隣に3位の樋口新葉がいる。続くアンナ・シェルバコワが演技を終えて1位。最終滑走のカミラ・ワリエワの演技前に坂本は3位の席に移り、部屋から出ようとする樋口にこう告げた。
「すぐに行くね」
坂本にとってワリエワに抜かれるのは疑いようがなかった。ところが、ワリエワは序盤からジャンプのミスなどが相次ぐ。
「自分の得点を把握していなくて、『私はいったい何位なんやろ?』と思いました」
モニターに映し出された順位は上から3番目。樋口と再会したのは、表彰台を下りた後だった。
大会の前から、シニアデビュー以来無敗のワリエワを中心にロシアの3選手が優勝を争うと見られていた。複数本の4回転ジャンプなど高難度のジャンプを持つアドバンテージは大きく、全日本選手権王者の坂本でもフリーの今季ベストはワリエワと約40ポイント差。ロシア勢に少しでも対抗すべく、上位の選手は4回転ジャンプやトリプルアクセルなどの習得に力を注いできた。しかし、牙城を崩したのは、4回転もトリプルアクセルもない坂本だった。
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photograph by Sunao Noto/JMPA