6年前、世界一奪還の夢は準決勝で潰えた。1次・2次ラウンド6試合を全勝で突破し、最高の雰囲気で臨んだアメリカ戦も、勝機はあった。それでも、あと一歩届かなかった。日本に足りなかったもの、そして2023年に活かすべき教訓を、当時の“分析官”が語る。
ロサンゼルスへと続くフリーウェイはひどく渋滞していた。ワンボックスワゴンの硬いシートに身を預け、日本代表スコアラーの志田宗大はため息をついた。
「どうやって伝えようか……」
隣に座るアシスタントのアナリストは身を固くして押し黙っている。サンディエゴを出発して間もなく8時間。ホテルに到着すれば、腕に抱えているアメリカ代表の分析資料を小久保裕紀監督ら首脳陣に伝えなければいけない。夕陽のピンク色に染まった西海岸の横長の景色が、この時ばかりはただ憂鬱に思えた。
志田は確信していた。
“日本は負ける。惨敗するかもしれない。アメリカに勝てる可能性は、10回対戦して1度あるかどうか……”
2017年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表は1次ラウンド、2次ラウンドと無敗で決勝ラウンドに駒を進めた。6試合で46得点。うち19点をホームランで奪った。中田翔(当時日本ハム)、筒香嘉智(当時DeNA)、坂本勇人(巨人)、山田哲人(ヤクルト)、鈴木誠也(当時広島)……。小久保監督就任以来、3年半にわたり引っ張ってきた中核メンバーが勝負強さを発揮して死闘を制した。その打線を陰で支えていたのが、攻撃担当の分析官としてベンチ入りしていた志田だった。
アメリカ行きを決めたチームは充足感に満ちていた。日本開催のラウンドを勝ち抜けた安堵と解放感。準決勝前の最終調整地であるアリゾナ・フェニックスの空港に降り立った時、憧れの地で野球ができる喜びに、選手たちの心は浮き立っていた。
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