メープルツリーの並木道が緑に彩られ、トロントに遅い春を告げる。6月上旬、羽生結弦(28)の拠点だった『クリケットクラブ』でオンラインインタビューに応じたブライアン・オーサーは、ソチ五輪のジャパンジャージ姿で現れた。
「ほら、懐かしいでしょう? ユヅが9年前五輪王者になった時の日本代表ジャージですよ。実はダイエットして10kg以上痩せたから、また着られるようになったんだ。今は何もかもが新鮮な気持ちだね」
若々しい笑顔のオーサーは、無邪気に語る。その胸に宿る喜びには、もちろん羽生の存在がある。
プロ転向の会見から9カ月が過ぎた今年4月、羽生はクリケットクラブを訪れた。2012年から11年にわたり師弟関係を貫いてきたオーサーとトレイシー・ウィルソンは、息子の里帰りを喜ぶような心持ちで、彼を受け止めた。
「私たちが最後に共に練習したのはパンデミックの直前です。その後はカナダに戻ることなくプロに転向したので、3年ぶりにユヅが帰ってくるという連絡を受けて、皆がエキサイトしていました」
何より嬉しかったのは、特別な用件のために訪れたのではなく、『ただ会いたいから来た』という気持ちだった。
「ユヅは、練習拠点を日本に戻してからも『いつかはクリケットクラブに遊びに行きたい』と言ってくれていました。自分のホームリンクだった場所です。そのまま疎遠になる選手も多いなかで、ケジメとして会いに来てくれたこと、会いたいと思っていてくれたことが嬉しかったです。ハビエル(・フェルナンデス)も引退後よく遊びに来てくれます。息子たちの帰省は本当に嬉しいですよね」
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