1月28日の新入団会見で初々しい表情を見せていたスーパールーキーは、期待以上のプレーですぐさまレッズの中軸に成長。アンダー世代のみならずフル代表でも日の丸を背負って檜舞台に立った。当時の番記者が、関係者の証言とともに激動の1年を見つめ直した。
25年も前の出来事だというのに、原博実はその日のことを鮮明に記憶していた。
「僕が指示したわけでもないのに、伸二に預けるとパスがどんどん出てくるもんだから、自然とボールが集まったね。噂は聞いていたし、ビデオも見ていたけど、実際に見たら度肝を抜かれたよ」
1998年2月11日、浦和レッズの監督に就任して間もなかった原は、初めて見る才気煥発な18歳のプレーに胸を躍らせた。主人公は静岡の名門、清水商業高校から加入した小野伸二だった。Jリーグの複数のクラブが争奪戦を展開し、清水エスパルス入りが有力視されたが、獲得へ粉骨砕身した横山謙三GMと宮崎義正スカウトの労が実って浦和へやってきた。
千葉・市立船橋高校との練習試合が実戦形式でのお披露目とあって、浦和の練習場には次々とファンが参集し、報道陣も50人余りが詰め掛けた。30分の試合を3本実施し、小野は2本目と3本目にトップ下で出場した。
変幻自在のドリブラー永井雄一郎、韋駄天の大柴健二というFWに柔らかいパスを何度も通し、28分に右足アウトで堀孝史に届けたスルーパスは、非凡な才能を示していた。ボールには38回も触れた。若手主体で編成した3本目のボールタッチは23回に減ったが、桜井直人のパスから左足シュートを決めている。
およそ700人。ネット越しにピッチをのぞく鈴なりの観衆は小野の美技に歓声と拍手を送り、時にどよめいた。
9本あったCKは、すべて小野がキッカーを担当。FKの名手と呼ばれた広瀬治もいたが、そんな老練を差し置き、セットプレーでも多彩なキックを披露した。
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photograph by Tatsuya Nakayama