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須崎優衣――「もうどん底でした」0.01%の可能性に懸けて。

2022/09/26
高校時代から7歳上の入江と数々の死闘を演じてきた。通算対戦成績は須崎の6勝3敗
第一線で活躍するアスリートは、敗戦から何を学ぶのか――。全試合“完勝”で東京五輪の金メダルを勝ち獲ったレスラーは、大会2年前の大一番で敗れ、引退を考えるまで苦悩していた。

【Defeated Game】
2019年7月6日 レスリング世界選手権代表決定プレーオフ
女子フリースタイル50kg級 入江ゆき○ 6-1 ●須崎優衣

   ◇

 100%出場できると信じていたのが、0.01%に――。絶望の底に突き落とされた一戦こそが東京オリンピック、女子レスリングフリースタイル50kg級金メダリストの須崎優衣の「珠玉の1敗」である。

 2019年7月6日、和光市総合体育館で行なわれた世界選手権の代表決定プレーオフ。須崎が左ひじのケガによって欠場した全日本選手権を制した入江ゆきとの再戦だった。ケガを完治させて臨んだ6月の全日本選抜で入江、登坂絵莉を下して優勝し、プレーオフにこぎつけたのだ。勝って世界選手権で表彰台に上がることができれば、東京オリンピック代表として内定する。裏を返せば、勝たなければ「東京」がほぼ閉ざされてしまうことを意味した。

「オリンピックの東京招致が決まった瞬間から、絶対に出場して、絶対に金メダルを獲るって自分と約束をしていました。プレッシャーを感じていたのか、あのときはとにかく試合を早く終わらせたいという気持ちしかなかった。いつもなら対策として対戦相手のビデオを見るんですけど、そういうこともやらずに、自分のいい動きだけをイメージして試合に臨んでしまったんです」

 どこかいつもの自分ではなかった。試合に入ってもその違和感を拭えなかった。

 先にポイントを奪いながらも、タックルで右足を取られて1-2と逆転され、第1ピリオドを終えた。仕掛けようとしても、ことごとくさばかれてしまう。第2ピリオドに向かう前、セコンドのコーチに「タックルに入るチャンスがつくれません」と迷いをこぼしている。

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photograph by KYODO

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