#1032
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[師弟で叶えた戴冠]大橋悠依「世界一の歓喜は2つの戦略から」

2021/07/30
「自分が金メダルを獲れるなんて本当に思っていなかった」。日の丸を背負って5年。過去何度も挫折を味わってきた遅咲きの女王が、五輪の大舞台で大輪の花を咲かせるまで。

 左右の手で両目の涙をそっとぬぐった。

「オリンピックチャンピオン」

 東京アクアティクスセンターに場内アナウンスが響くと、大橋悠依の目がみるみる潤んでいった。

「金メダルを獲るなんて思っていなかった。夢みたい。正直、実感がなかったのですが、表彰台に上る前に『オリンピックチャンピオン』と紹介され、うれしさがあふれました」

 7月25日の競泳女子400m個人メドレー決勝を4分32秒08で制した。メインポールには日の丸が揚がっていた。日本競泳陣にとっての今大会メダル1号は、お家芸と言われながら1964年東京五輪ではひとつも獲ることのできなかった金メダルだった。

 前夜の予選を4分35秒71の好タイムで泳ぎ、3位で通過していた。決勝では最初のバタフライを3位で入ると、得意の背泳ぎで順位を上げ、3種目めの平泳ぎでスッと首位へ。最後は自由形を得意とする米国勢を振り切り、真っ先にゴールした。決勝のタイムは予選より3秒63も上げていた。

 レース前は緊張がマックスに達していた。平井伯昌コーチに「緊張してます、緊張しています」と繰り返した。返ってきたのは「緊張していて当たり前。順位もタイムも気にしなくていい。自分のできること全部やれば大丈夫」という言葉。

「それで、自分のペース、レースをすることだけを考えて入場できました」(大橋)

 平井陣営が持つ、'08年北京五輪と'16年リオデジャネイロ五輪での金メダル獲得ノウハウを存分に活用した。

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photograph by Hiroyuki Nakamura

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