3歳までは勝ちきれないレースが続いていた牝馬が、古馬となり、海外遠征を経て一気に能力を開花させた。引退レースで狙うは、宝塚記念に続くグランプリ制覇。矢作芳人調教師が、その意気込みと覚醒の秘密を語った。(Number992号掲載)
競走馬が描く成長曲線は様々で、GI級のトップホースでも比較的、早くにピークを迎える馬がいれば、ゆっくりと素質を開花していく馬もいる。5歳を迎えた今年、急激に力をつけて宝塚記念とコックスプレート(豪州を代表するビッグレース)を連勝。牝馬としては史上初の快挙となるグランプリの“ダブル制覇”をかけ、有馬記念に挑むリスグラシューは明らかに後者のタイプだが、これまでに描いてきた進化の軌跡はかなり特異といえる。
「僕が顕著に感じただけであの馬は4回、変わっています」と矢作芳人調教師。そんな牝馬、なかなかいない。
最初に“顕著な変化”を感じたのは4歳初戦の東京新聞杯だった。エンジンのかかりが遅く、強襲及ばずの惜敗を繰り返した2歳暮れから3歳にかけてとは見違えるような鋭い末脚を発揮。狭いスペースを割って抜け出し、久々の勝利を手にした一戦だ。
「ユタカ(武豊騎手)は『以前ならあのスペースは割れなかった』と言っていました。3歳時より肉体的にもだいぶ力強くなって、成長を実感したレースでしたね」
とはいえ、春の大目標に定めていたヴィクトリアマイルはジュールポレールを僅かに捉えきれず、GIでは4度目の2着に終わる。続く安田記念は8着。ただ、同厩のモズアスコットに完敗を喫したこのレースは、重要なターニングポイントになった。
「距離はマイルが合う、長くても2000mぐらいまでかなと思っていたんです。だけど(1600mの)安田記念で、究極のスピード勝負になるとワンパンチ足りないと感じて。適性を見極めるのにそこまでかかりました」
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