それを推し進めたのは、現実味がないようでいて、
実は確固たる信念に基づいた監督の言動だった。
ロンドン五輪で28年ぶりに銅メダルを獲得した女子バレー。眞鍋政義率いる全日本の3年半の取り組みが具現化したのは、準々決勝の中国戦だった。この準々決勝が厚い壁として立ちはだかり、日本は長い間メダルに辿りつけないでいた。中国には五輪で勝ったことがなかった。だが眞鍋ジャパンは得意のデータ分析で中国の弱点を洗い出し、息詰まる戦いの末、開かずの扉をこじ開けた。オドオドする中国に対し、日本はあくまで堂々とした姿勢を崩さない。これまでの両国の対戦を反転させたような闘いぶりである。
なぜ、五輪が始まる前から“準々決勝は中国戦”と想定できたのか?
それには理由があった。五輪が始まる前から、準々決勝は中国と想定し、中国対策を万全にしてきたからである。しかしなぜ、五輪が始まる前に、しかもAグループとBグループの2位と3位が抽選で決まる対戦国を中国と想定したのか。木村沙織が笑いながら言う。
「眞鍋さんが、中国が夢に出てきたから間違いない、と訳が分からないことを言うんです」
「夢に出てきた」では、あまりにも説得力がない。それこそ、夢物語のような話を選手が信じるのか。大友愛は平然と言う。
「だって、眞鍋さんの言うことはこれまでだってその通りになっていますから、私は疑問すら抱きませんでした」
「眞鍋さんの言うことって、ムカつくほど当るんですよ」(竹下)
10年以上全日本のユニフォームを纏い、何人もの代表監督の下でプレイしてきた竹下佳江も、苦笑いする。
「眞鍋さんの言うことって、ムカつくほど当るんですよ。私は慎重な性格なので、そうかな? と思うときもありましたけど、結局は眞鍋さんの言うとおりになってきた。でも、それは勘とかじゃなく、アナリストが分析する膨大なデータを常に読み込んでいるからこそ、見えてくるものがあるんだと思います」
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