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<アジア杯、三者三様のFW像> 得点力不足は解消したか。~岡崎慎司、李忠成、前田遼一~ 

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戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2011/02/16 06:00

<アジア杯、三者三様のFW像> 得点力不足は解消したか。~岡崎慎司、李忠成、前田遼一~<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

“遅れてきたタレント”前田が潜在能力を発揮するまで。

 南アフリカW杯のメンバーがベースとなり、北京五輪代表が増えているザックのチームには、すでに連携が確立されているブロックが少なくない。29歳ながらAマッチ出場試合が2ケタに満たなかった前田は、遅れてきたタレントと言うべき存在だ。Jリーグで2年連続得点王となった潜在能力を発揮するには、多少なりとも時間が必要だったのだろう。遠藤保仁は言う。

「下がってこないようにというのは、毎試合伝えてました。枚数的にも中盤で十分にボールを廻せるし、前へ運んでいけるので、得点だけに集中して、狙っていけばいいよ、と」

 前田が自らの役割を身体に刻むことで、周囲も持ち味を発揮する。相互理解が成立していった。前田のアシストで5点目をあげた岡崎は、興奮を抑えるように振り返った。

「前田さんがボールを引き出してくれるから、僕らもそれに連動していける。ずっと一緒にやってきたわけじゃないですけど、Jリーグの試合は見ているから、前田さんの良さは分かる。身体の強さは日本人離れしているし、点を取る力はすごい。前田さんのような選手とやりたいと思っていましたし、タイプ的にも合うんじゃないかな」

 183センチの長身を誇る前田は、守備でも重要な役割を果たす。セットプレーではゴール前に欠かせない。「空中戦で彼の高さが必要だ」と、ザックも説明する。

「最後はヒーローになると、ずっと思い続けていました」

 ヨルダン戦を最後に、李は出場機会を得られなかった。サウジ戦を契機に連動性が上向き、攻撃陣は出場停止と無縁なのが主たる理由だった。李はベンチから声を張り上げ、チームはファイナルへ辿り着く。

「こういう大会で優勝するには、ラッキーボーイの存在が不可欠ですよね。それはやっぱり攻撃の選手から出てくるべきだと思うし、1トップは(前田)遼一さんで、オカ(岡崎)は中盤でも出てる。スタメンじゃないと分かったときから、自分がラッキーボーイにならなきゃいけない、最後はヒーローになると、ずっと思い続けていました」

 ピッチから離れていても、メンタリティは萎えなかった。試合に絡めないからといって劣等感を抱かず、孜孜(しし)として練習に取り組んだ。練習後に質問を受ければ、意欲的な思いを伝えた。オーストラリア戦の前日には、身体の芯から湧き出るような熱を発散していた。

「自分が出るとしたら、まず間違いなく得点が必要な場面。どんな形でもいいから結果を出したい。ヨルダン戦はちょっと固かったですけど、自分としてはあれを次の機会につなげようと思ってきた。監督もJリーグからずっとプレーを見てるから、動きに関しては何も言うことはないと。あとは自分を信じてやれば大丈夫なので、ピッチの上ではあまり考え過ぎないようにしたいです」

 チャンスは訪れる。自分の力で作り出した。オーストラリア戦の109分(延長後半4分)、長友佑都が左サイドを疾走する。ニアサイドへ動き出す予備動作が、マーカーのカーニーを誤ったポジションへ誘い出す。

【次ページ】 手応えよりも課題や悔しさを口にする李と前田。

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