ボクシングPRESSBACK NUMBER
「試合後に写真を見返したら、ことごとく…」“天心番”カメラマンが脱帽した井上拓真の技術力「これは厳しい」那須川天心の敗北を予感した“意外な瞬間”
text by

長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2026/10/07 11:00
那須川天心がダウンを奪った7ラウンド、回復に専念する井上拓真。ロープ際でも圧巻のディフェンス能力を見せた
おそらくダメージは、両者ともにそれほどないでしょう。写真を見ると、天心選手のジャブや左ストレートも前回よりは当たっていた。それでも拓真選手とあれだけポイントが開いてしまう。キックやMMAを撮影することが多い身として、ボクシングの奥深さをあらためて思い知らされました。
「これは厳しい」ダウンを奪った那須川天心の異変
天心陣営からすると、序盤にビハインドが明らかになった時点でおそらく当初のプランは崩れてしまった。見ている側にはわかりやすいですが、公開採点システムの難しいところです。ですが、それでもチャンスがまったくなかったわけではない。やはり分岐点は7ラウンドの、あのダウンシーンにあったと思います。
終始ポーカーフェイスだった拓真選手の表情が、この試合で初めて変わったのがダウンの直前の笑顔でした。ほんのすこしだけ気の緩みがあった。そこに天心選手が渾身のワンツー(左ストレート)を決めたのはすばらしかった。ファン・フランシスコ・エストラーダ戦もそうでしたが、葛西裕一トレーナーとの二人三脚で課題だった「倒せるパンチ」の切れ味は間違いなく増していました。そういったシーンがあっただけでも、第1戦とは雲泥の差だと思います。一方で、もっと競った展開のなかでああいった場面を作ることができていたら、とも感じました。
ADVERTISEMENT
ダウンを奪われても、拓真選手はポイントがわかっていたから焦らなかった。ここは10-8でいい、と割り切って、冷静にガードと回復に徹していました。おそらく陣営としてダウンを取られるケースも想定したうえで戦っていた。12ラウンドの世界戦なら、一度のダウンは他のラウンドで問題なく補えますからね。
結果的にダウンを奪ったはずの天心選手が、かえって大味なボクシングになってしまった。パンチの振りが大きくなり、当たらなくなった。もちろん会場は盛り上がりましたし、非常に見応えもありましたが……。あそこで勝負をかけて詰めきれなかったのを見て、率直に「これは厳しいな」と感じました。7ラウンドの終盤あたりは、すごく疲れた顔をしていましたから。そのあたりも、ポーカーフェイスの拓真選手とは対照的だった気がします。
ああいった状況に対処できる拓真選手の卓越したディフェンス能力もさることながら、父の井上真吾トレーナーをはじめ、井上陣営の「ボクシングの勘どころ」を見極める力がすごい。次の8ラウンド、真吾トレーナーが「絶対に取り返せ」と勝負に出させた判断は見事でしたね。7ラウンドに続いてこのラウンドも落とすようなことがあれば、流れが天心選手に傾くことを理解していた。この山場の8ラウンドを拓真選手が完全に取りきったことが、結果的に大きかった。




