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審判たちの甲子園BACK NUMBER
「甲子園が揺れている」2009年“伝説の決勝”審判たちが感じていた異様な雰囲気…「下を向いている子がいない」勝ち負けを超えた「終わらない夏」の終焉
text by

安藤嘉浩Yoshihiro Ando
photograph byHideki Sugiyama
posted2026/08/14 06:01
2009年夏の甲子園決勝、激闘を終えた中京大中京と日本文理の選手たち。勝者にも敗者にも笑顔があった
敗者にも涙はなく…「終わらない夏」の終焉
スタンドがさらに沸き立つ。8-10。2点差として、なお2死一、二塁。
まだ球場がどよめいている中、代打の石塚雅俊が初球をレフト前にはじき返した。さらに1点を返し、9-10。
ついに、ついに1点差になった。なお、2死一、三塁。
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打者が一巡して、8番の若林尚希が右打席に入る。初球が低めに外れるボールになると、スタンドから「ウォーッ」という歓声が起こる。
若林は2球目を、バットの真芯でとらえた。
「抜けた!」
一塁塁審の長谷川は、打球音と当たりから、そう思った。
「ものすごい当たりでした。その前からレフト方向に3本打球が飛んできましたが、一番いい打球だったと思います」
三塁塁審の野口も振り返る。
三塁手の頭上を襲ったその打球を、中京大中京の河合ががっちりつかんだ。
「アウト!」「アウト!」
球審の日野が本塁ベース前まで出て、頭上で右こぶしを2度力強く握って、「終わらない夏」の終焉を告げた。
バッテリーが互いの苦労をたたえ合うように抱き合う。中京大中京の選手たちにようやく笑顔が戻ったものの、喜びを爆発させるだけの余裕はなかった。
あと一歩届かなかった日本文理の選手にも、涙はない。
「下を向いている子がいない」
本塁ベースを挟んで並んだ選手たちを、三塁塁審の野口は見渡した。
「どっちが勝った、どっちが負けた。そんな感じはなかった」
4人の審判員に共通する感情は「ホッとした」というものだった。勝ち負けを超えて、力を出し合った選手たちの輝いた表情が並んでいる。
後日談がある。大会後に日本高校選抜チームが編成され、米西海岸に遠征した。事前の国内合宿では、審判員の代表が国際大会での注意事項などを選手に伝えるのが恒例になっている。このときは日野がその役目を担った。
決勝を戦った選手も何人か選ばれていた。
日野の顔を見ると、日本文理の伊藤が寄ってきた。
「ありがとうございました」
さわやかに頭を下げる伊藤をねぎらいながら、日野は思ったという。
「ええ決勝に立ち会わせてくれて、こっちこそ、ありがとうやで」
<前編と合わせてお読みください>



