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「いつもと様子が違う」敗者・扇久保博正の闘いに“ある異変”…なぜ元教え子・神龍誠戦でファイトスタイルを変えたのか? RIZIN仙台で見えた“39歳の美学” 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byRIZIN FF Susumu Nagao

posted2026/06/13 17:06

「いつもと様子が違う」敗者・扇久保博正の闘いに“ある異変”…なぜ元教え子・神龍誠戦でファイトスタイルを変えたのか? RIZIN仙台で見えた“39歳の美学”<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

ファイトスタイルを変え、大胆に前に出る闘いを貫いて神龍誠に敗れた扇久保博正

「いつもと様子が違う」扇久保の闘いに“ある異変”

 チャンピオンとしての初戦、扇久保は入場曲を変えてきた。吉田拓郎の『落陽』から『人生を語らず』へ。プロ10戦目まで使っていた曲だが、連敗を機に『落陽』にした。そして今回、また『人生を語らず』に。以前と違いライブバージョンにした。

 歌詞の〈越えて行け そこを/越えて行け それを〉が試合のテーマだった。神龍へのメッセージでもあったそうだ。では扇久保は何を越えて行きたかったのか。

 一つは教え子との試合という試練。もう一つは、おそらく過去の自分だ。

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 試合序盤から、いつもと様子が違った。パンチの大振りが目立つ。前進したところを組みつかれ、バックに回られた。3ラウンドにはカウンターの縦ヒジを合わされ出血も。攻めようとすればするほど神龍の術中にはまっていくように見えた。神龍曰く「試合は試合、感情は感情」。扇久保が何をしてきても、落ち着いて対処することに徹した。この2年、技術だけでなくメンタルも成長していたわけだ。判定3-0での王座移動にも納得のうまさ、強さだった。

 扇久保は本来の実力を出し切ったとは言えなかった。持ち味は粘り強いテイクダウン。派手ではないが、何度黒星を喫してもめげず、どんな強敵にも喰らい付いて生き残ってきた。

 RIZINでの勝利はすべて判定だが“根性型”の闘いでファンの心を掴んだ。グッズとして塩(食塩)を発売してもいる。相撲発祥の隠語「しょっぱい」(試合が退屈、盛り上がり不足)にかけたものだ。地味な試合を貫いて、それを“味”にしてしまったのである。本人に「塩試合」と呼ばれることについて聞くと「僕の塩は極上の塩ですから」。記者会見やインタビューで“大人”のやり取りができる選手だ。

扇久保はなぜ、ファイトスタイルを変えたのか?

 そんな扇久保が、大事な初防衛戦でファイトスタイルを変えた。前に出て殴る。持ち前の緻密さよりも大胆さ、好戦性を優先させたような闘いぶりだ。新しいスタイルゆえ、ディフェンスがおろそかになった部分もあるだろう。

「今日はとにかく前に出て倒したかった」

 扇久保は言った。それは「なりたい自分になるため」だった。キャリアの中で、パンチでのKO勝ちは一度もない。それをやりたかった。チャンピオンベルトを巻き、39歳になって、やり残したことを考えた結果だった。

「自分が憧れた、昔見てた格闘技の闘い方で勝ちたかった」

 初めて生で格闘技を見る人も多いはずの東北で、観客に満足して帰ってほしかった。見た人が格闘技を始めるきっかけになるような試合がしたかった。

 チャンピオンはベルトを守る立場だ。年齢的にも“衰えをカバーする”練習と試合に取り組む時期だろう。けれど扇久保は“越えて行く”ことを望んだのだ。これまで自分に勝利をもたらした鉄板のファイトスタイルではなく、今までとは違う勝ち方を目指した。

 もしかしたら、それが敗因だったのかもしれない。だが扇久保の闘いぶりを「正しくなかった」とは言いたくない。冷静な試合運びで勝った神龍は正しかった。ベルトを失うリスクを背負ってKOを狙った扇久保は、美しかった。

【次ページ】 「あなたのおかげで強くなれました」

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